聞き手:服部桂・朝日新聞ジャーナリスト学校シニア研究員
――エルヴィスの時代は、ごく少数のレコード会社とテレビ局があるだけで、そこを経由して音楽を広めるしかなかった。でも、今はインターネットの時代ですから、携帯音楽プレーヤーだけで新作を聴く人、「YouTube」でしか聴かない人など、様々な聴き方が可能になっています。つまり、メディアの激変によってロックやポップスの受容のされ方も産業構造も大きな変化にさらされています。こうしたネット世代以降のロックやポップカルチャーはどうなっていくのでしょうか。例えば、総クリエイター社会というか、プロとアマの区別がなくなって誰でもSNS経由でスターになる可能性が開かれるのか。あるいは、CDをメジャーな音楽会社から出すよりもインディーズだけで食べていけるようになるのか。
サエキ この本『ロックとメディア社会』(新泉社)でも少し触れていますが、人類史上、生演奏の音楽以外に音楽を伝えるメディアとして楽譜しかない時代が長く続きました。それが、ある時期からレコードの時代になった。それくらい大きな変化が今、起きているのではないか。著作権による秩序が構築された音楽業界のあり方が、大きく変わろうとしています。
もちろん、音楽関係者だからといって霞を食って生きるわけにはいかない。何らかの収入がなければ音楽を作り続けることはできないでしょう。親の遺産や路上で演奏するだけで音楽家が生きていける、という話にはならない。当面はコンサートやライブ、あるいはCDを一定の数で売る、あるいは音楽配信で収入を得るということをするしかない。ただ、私は音楽配信は失敗しつつあるのではないか、チャンスを逸したのではないかと思っています。
――「iTunes」以外は、ということですか。
サエキ いや、「iTunes」も成功したとは思えません。なぜなら、ビートルズの「アンソロジー」が「iTunes」限定で発売されたのですが、全く話題になっていない。新譜を「iTunes」だけで出すインパクトはあまりないのです。
――確かに、ライブにはお金を払うけれど、記録された作品には払いたくない、いくらでもネットに転がっている、という状況になっています。既存の音楽会社は、違法コピーにある程度目をつぶって、広がったところでライブをしたり、ノベルティーグッズを売ったりして、儲けようとしています。
サエキ 物販ですね。それはそれで大事ですが、グッズにならないような音楽も多い。現在普及しているインフラを既成事実として捉えてはいけないし、確実そうに見えるインフラも成功しているとは限らない。私は、今ネット業界で信じられているシステムの半分は、10年以内に瓦解、淘汰されてしまうと思っています。