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 ソフトバンクのCMで、宇宙帰りの古川さんが「宇宙に最初に行ったのは犬」だとニコニコしながら犬に向かって言っている。しかしこれはニコニコして言うようなことでしょうか。その犬って「宇宙船に乗せて打ち上げてそれっきりにされたライカ犬」だと思う。ボクの人生はあのライカ犬よりはマシだ、という『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』という映画もあるぐらいの、「悲惨な人生」を体現したのが「最初に宇宙に行った犬」ではないか。

拡大地球に帰還した古川聡さん=2011年11月26日

 これはCMであり、広告代理店が制作して古川さんのセリフもあくまで「台詞」であって言わされてるだけだ、とわかった上で、私がかねがね思っていたことが「やはり正しかった」とわかった。それは、

 「宇宙に行くと人間は壊れる」

 ということです。

 今まで、宇宙に行って帰ってきた日本人の宇宙飛行士、秋山さん毛利さん向井さん若田さん土井さん野口さん山崎さん古川さん、と並んだこのメンツをみて思い浮かぶのが「ふつうではない」ということで、そりゃ精神的にも肉体的にも酷使する&勉強ができる&日本人でまだ数人しかいない職業、とくれば「ふつう」じゃなくて当然なのだが、しかしその「ふつう」さが、よくある「あのヒト変わってる」というような簡単なものではなくて、何か「別世界から帰ってきた」というような……。宇宙はまさに別世界だから、その通りなんだが。

 この、微妙な感触をむりやり具体的にしてみると、テンションが人と違う、というのがある。声のトーンが人より二度ぐらい高い感じで、しかししゃべりのテンポは人よりも一拍か二拍遅い、というか、拍の入る場所がふつうと違うというか。

 もちろん実際に会ったことなどなく、見るのはテレビ画面でしかない。雑誌で登場する時は何も感じない、というのは活字では声のトーンとテンポは表現しない(できない)からだろう。テレビに出ると日本人宇宙飛行士はふつうでなくなってしまうのかもしれない。……と考えてふと立ち止まる。それは彼らの人間性がそうさせるのではなく、職業から来るものでは。そもそも「シロートなのにもかかわらずテレビに出るOR出さされてしまう」職業の筆頭が宇宙飛行士ではないか。

 それも、宇宙船の中で、無重力状態で漂いながら、「日本のみなさーん」と叫ぶとか、シロート目には遊んでるように見えちゃったりする「小学生の公募による宇宙実験」をやっぱり無重力の中でやってみせたり、政府のえらい人へかしこまってご挨拶をしたり、で、そういう時、皆さんかならずラフな、「やあ!」とでも言いそうな雰囲気なのも、違和感の原因か。なにしろNASAはアメリカだし、アメリカンな文化が基本だろうから。

 そして服装が皆さん決まってポロシャツで、それもまた「気さくなオレは宇宙飛行士」というのを演出してるのかなあ。とにかく、宇宙船内のたたずまいというのは、どんな日本人でもヘンなふうになっちゃうと思う。話はそれるが、ソフトバンクの孫さん。あの人が球場で、ホークスを応援してる時のたたずまいというのも、どうも板についていないですよね。宇宙船のポロシャツ姿と同様の居心地の悪さを感じる。

 で、地球に戻ってからも宇宙飛行士、ひっぱりだこである。たぶん、出しておけば大丈夫、という意味でスターなんだろう。どういうわけか、日本人の宇宙飛行士は不倫だけはしない、という感じがする。そういう点でスキャンダルの心配はなさそうだし、それにそもそも、ものすごく珍しい仕事を、その人の努力によってなし得たとなれば、そりゃ出すよ。テレビ的にこれほどありがたい存在はない。

 でも、出し方がダメだと思う。

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筆者

青木るえか

青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト

1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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