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【2011年の本】 この国の未来を考えるよすがに

四ノ原恒憲 四ノ原恒憲(朝日新聞文化グループ)

 久世光彦の単行本未収録エッセーを集めた新刊『歳月なんてものは』(幻戯書房)を読んでいたらこんな文に出会った。コンビを組んでいた向田邦子と自分が、昭和10年代にこだわった理由の一つとして「あの〈時代〉の暗さが好きだった。世相の暗さではなく、部屋の暗さ、町の暗さである」。そして、「その暗さと寒さの中で、精一杯燃えようとした《人の気持ち》」を描きたかったと。

 読みながら思い出す。クリスマスのイルミネーションで飾られた今のまばゆい明るさからみれば、すでに幻のようにも思える3・11後の暗い東京の夜の街を。みんな、嫌だったのだろうか。戦後生まれであろうと、多くの人は、今と比べれば、ずいぶん暗かった街を知っている。ある懐かしさと共に、被災者に思いを至らせ、現在の暮らしの過剰を思い、それを支える原発に支えられたこの国のエネルギーの危うさを思わなかっただろうか。そんな現実が、フィクションを凌駕した年の瀬に振り返って記憶に残る本は、何だったか。

 作家、評論家の吉田健一は、激しく戦後の日本を嫌悪した。2012年に生誕100年だからなのかは分からないが、随分、作品が文庫化された。こんな年に読んだせいなのか、例えば『東京の昔』(ちくま学芸文庫)でもいいが、戦前の東京の風景と人々の暮らしが、妙に心にしみた。

 東京で戦後、古書店を開いた関口良雄が、今では考えられないような文人や客との今では考えられないような交流を描いた『昔日の客』(夏葉社)も忘れられない。32年ぶりの復刊という地味な本だが、新刊にはない味わいに、不思議な思いにとらわれた。

 震災や原発事故に触れた本では、あまたある中で

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