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なんで成功に転じたのかわからないスティーブ・ジョブズの謎

青木るえか

青木るえか エッセイスト

 今年のテレビといいますと『江』と『カーネーション』だなあ。何かこう、テレビというものがイヤな方向に向かう象徴みたいな二番組だ。

 と、今年のテレビの総括、なんてのを考えていたんだけれど、天皇誕生日の夜、NHKのスティーブ・ジョブズ特番を見ていたらふっとんでしまった。

 ふっとぶとかいうとその番組が良くも悪くもとんでもない番組だった、と思われそうだ。そういうことはない。ごくふつうの番組だった。その、ごくふつうの、よくある「テレビ番組のダメさ」から、いろんなことを考えてしまったということです。

 今年はいろんな人が死んだが、死んでしんみりした気持ちにさせられたのはスティーブ・ジョブズと金正日の2人である。

 悪人(と見られる人)の中で、私は金正日がそれほど恐くない。たとえば(唐突であるが)私は朝青龍と白鵬ならだんぜん白鵬のほうがコワイと感じる。朝青龍には半殺しにされそうな恐怖があるが、白鵬には殺されそうな恐怖を感じる。半殺しと殺しを比べると、半殺しのほうが痛そうな気がする。世の中の朝青龍アレルギーはそのへんからきてるのではなかろうかと思うことがあるが、そんなことよりも朝青龍には愛嬌がある。憎めない。同じように、世界の独裁者の中で、金正日には愛嬌を感じた。愛嬌のある人が死ぬのは哀しみを呼ぶ。それできっとしんみりしたのだ。

 まあ、それはいい。ジョブズは悪人ではなく偉人のカテゴリーの人で、偉人はふだんホメられているし、死んだとなれば追悼がドッと出る。ネットで「なるべく手垢のついていない新鮮な言葉を駆使しての追悼文」が山ほど出てきて辟易して、悲しさも失せてしまう。ジョブズの死の時もそれはもう山ほど追悼文がアップされ、読んでいてゲンナリした。それでもうっすらと悲しい気持ちになった。自分でも理由がわからない。

拡大ジョブズの伝記はアメリカのアマゾンは今年の販売冊数で第一位になった=ニューヨークの書店で

 そこで、話題の本を買うことは人として恥ずかしい、と信じているけれど恥を忍んで買い込んだのだ『スティーブ・ジョブズ』上下巻(1、2巻)。Amazonに予約までして買いました。

 で、来たのを読んだ。そしてキツネにつままれたような気分になり、他の人の感想を探して読んでみた。

 概ね好評のようである。

 うーん、そうなんですか。私にはどうもよくわからない本だった。

 真面目に書かれ真面目につくられた本だというのはわかる。へんにドラマチックじゃなく淡々とジョブズの生涯を書いてある。光あるところに影がある、影があるから光が輝く、とばかりに「ジョブズの困ったところ」もいろいろ出てくる。なるほどねえ、才能も溢れてるけどいろいろ困ったところも多い人だったのねえ、そのへんがいかにも偉人ぽいわねえ、さすがよねえ。という気持ちにはなれる。

 上巻を読んでる時にはそれなりに納得いっていた。才能あるのに性格的に残念なところもあり、どんどんうまくいかなくなっていく、あるあるある、という流れはけっこうリアルだ。しかし、下巻に至って、

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筆者

青木るえか

青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト

1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。

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