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チャン・グンソクのライブにカップルで行けるか?

近藤康太郎 朝日新聞西部本社編集委員兼天草支局長

 メイシー・グレイにレイラ・ハサウェイと、新年早々レディーソウルの景気いいライブを続けて見てご機嫌なのだが、続いてロックのエレファントカシマシの新春ライブ(1月6日、渋谷公会堂)もたいへんよろしかった。

 4人バンドだが、新春らしく豪華にホーンセクションとストリングスも入り、元々ゆるいバンドのノリが、いい意味でルーズな、ファンキーミュージックとなっておった。ボーカルの宮本浩次は、ポップな楽曲の中に、前衛の牙がときおり光って、常に増してかっこよかった。浄福という気持ちがしてくる。

 楽しく聴いていたのだが、ふと気になったのは、前にいた客がカップルで、しかもときおり、男のほうが女の肩に頭をもたせかけたりして、甘えている。

 いや、暗闇で何をしたってぜんぜん構わないのだが、「気になった」のは、エレカシのライブにカップルで来るかぁ? エレカシデートは成立するか、ということなのだ。

 エレカシは、今でこそポップなヒット曲も多数あるが、デビュー当初はとてもアバンギャルドなことをやっていて、その本質は変わっていない。サウンドは硬質、歌詞は硬派、どっちかというと野郎が好きそうなタイプのバンドだと思う。

 でも、客層は圧倒的に女性が多い。1人連れ、もしくは女の子同士が連れ立って見に来ているのが大多数。たまに男1人というのがいて、カップルは1%を切る(目算)。

 エレカシの唯一の欠点がその理由だと思うのだが、宮本がかっこよすぎるのだ。眉目秀麗、ロックンローラーな細い体形、ステージでのしゃべりも客に媚びず、そのくせユーモラス、サウンドは王道ロックなんだけど果敢に冒険もしていて、身を切る男気の歌詞も馬鹿マッチョにならないのは、もはや現代詩レベルだから。

 つまり、見に来ている男どもは、完全に、どこをとっても負けている。宮本に勝負しているつもりもなかろうが。これじゃあ、女の子を誘う気になれない。だって、コンサートのあと、飲みにいっても、きっと、女の子はしらけんだろうなと想像するから。宮本にくらべて、ナスの古漬けかなんかで一杯飲んでる目の前のこの男って、いったい同じ生物なのか、と。

 ましてや、ライブ中に肩に頭もたせかけられたら、自分が女の子だったら「ちょっと向こうに行ってて」と払いのけると思う。

 では、だれのライブだったらカップルで見に行ってもいいか――つまらんことを考えてしまった。

 エリック・クラプトン? OKだろう。名うてのプレイボーイだが、いまや好々爺だ。彼女を取られる心配はないはず。ボブ・ディラン、ニール・ヤングともに○。ソニック・ユースは○だが、ニルヴァーナは×。サーストン・ムーアとカート・コバーンの外見で、サーストンにはまだ勝負できるとうぬぼれる(できないって)。

拡大チャン・グンソク=韓国外交通商省提供

 チャン・グンソクは? 

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筆者

近藤康太郎

近藤康太郎(こんどう・こうたろう) 朝日新聞西部本社編集委員兼天草支局長

1963年、東京・渋谷生まれ。「アエラ」編集部、外報部、ニューヨーク支局、文化くらし報道部などを経て現職。著書に『おいしい資本主義』(河出書房新社)、『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』(水野和夫氏との共著、徳間書店)、『「あらすじ」だけで人生の意味が全部分かる世界の古典13』(講談社+α新書)、『リアルロック――日本語ROCK小事典』(三一書房)、『朝日新聞記者が書いた「アメリカ人が知らないアメリカ」』(講談社+α文庫)、『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』(講談社+α新書)、『朝日新聞記者が書けなかったアメリカの大汚点』(講談社+α新書」、『アメリカが知らないアメリカ――世界帝国を動かす深奥部の力』(講談社)、編著に『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』(文春文庫)がある。共著に『追跡リクルート疑惑――スクープ取材に燃えた121日』(朝日新聞社)、「日本ロック&フォークアルバム大全1968―1979」(音楽之友社)など。趣味、銭湯。短気。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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