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 ジャック・オディヤール監督の『預言者』を、ちょっぴり期待して見に行った。しかし、これがひどく退屈な映画で、ガックリ。西武新宿線とJR山手を乗りついで渋谷の試写室に駆けつけたのに(後悔先に立たず……)。

 まあ、期待外れは仕方ないとして、ここでは、撮り方によっては面白くなったかもしれぬ本作について、ざっと書いておこう(ドーでもいいけど、本作は第62回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞)。

 主人公は、無学で身寄りのない19歳のアラブ系青年のマリク(タハール・ラヒム)。傷害罪で禁固6年の判決を受け、コルシカ・マフィアのボス、セザール(ニエル・アレストリュプ)が“犯罪王”として君臨する中央刑務所に送られてくる。マリクは入所早々、麻薬の代わりにフェラチオを彼に要求したアラブ人のレイェブ(ヒシャーム・ヤクビ)を殺すよう、セザールから命じられる。

 迷いながらも、マリクはレイェブを殺す。が、看守や所長がセザール一味に買収されている刑務所内では、彼は罪に問われることはない。それどころか、アラブ系として疎まれていたマリクは、獄中の組織内で徐々に頭角を表していく。さらに彼は、セザールから殺しの報酬として“休暇”を貰って(!)、娑婆(しゃば)に出、独自の麻薬ルートを作るチャンスさえ得る。

 そして奇妙なことに、レイェブの幽霊がマリクの前に何度か現れ、おまえは成功するといった意味の「予言」をするが、自分が殺した男の予言どおり“上昇気流”にのったマリクは、読み書きを学び、闇世界のビジネスのノウハウを会得していく。そんななか、獄中だけでなく、外部の犯罪組織にまで及んでいたセザールの支配力がゆらぎはじめる……。 

 このように、奇怪な権力構造をもち、さまざまな民族がモザイク状に入り交じって収監されている刑務所を舞台にした、主人公マリクの風変わりな成長/成功物語は、それ自体としては面白い。というか前述のように、撮り方によっては面白い映画になったであろう物語だ。

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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