2012年02月10日
おばさん層を中心に「なんや辛気くさくてイヤや!」と言う声が陸続と聞こえてくる。……とはいっても自分はたいへん世間の狭い人間なので、たまたまそういう事を口に出した人と二人ぐらい会っただけかもしれない。
いや~、注意深く気にしてるんだが『カーネーション』の人気の実態がよくわからないのだ。朝ドラでいえば『ウェルかめ』よりは多くの人が面白がって見ているとは断言するが(比べるのも申し訳ないぐらい、あれはひどいドラマであった。成長したマナカナ姉妹が出てきたやつもひどかったけど。どっちも大阪制作だ)、『おひさま』と比べてどうか、となるとよくわからなくなってくる。その程度で迷ってるようじゃ「国民的ドラマ」の座は遠いか。
でも気になるなあ、『カーネーション』の人気の実態はどうなんだ。マニア向けドラマにすぎなかったりするんでしょうかね。同じようなやつだと、同じNHK大阪制作の『ちりとてちん』も、まわりではやたら持ち上げる人が多くて人気あるかと思ったら視聴率ぜんぜんあかんかったそうだ。それみたいなもんだったりするのか。
ところで『ちりとてちん』の脚本家って、『平清盛』の脚本やってる人ですってね。『ちりとて』は私はうるさくて見てられなかった。『清盛』も確かにうるさい。うむ、同じ人だな。
テレビの話題から始まってテレビとはまるで関係ない話に行きます。話題の書『父・金正日と私 金正男独占告白』についてです。
出ると知って楽しみに待ち、店頭に出た瞬間買いました。私は正男さんがけっこう好きだからです。北朝鮮が何をやってるかやってないのかは置いておいて、正男さんがディズニーランドに行こうとして空港で捕まった時に「これは好きな人かもしれない」と思った。愛嬌があっていい。朝青龍の愛嬌と同種のものを感じた。
その後、チラチラといろんなところで露出してチョロチョロと発言もして、けっこうリベラルなことも言うし、ディズニーランド潜入失敗の時よりもさらに愛嬌は増してるし、長男だけどはずされてるみたいなのもいい味を出していて……なんてことは誰でも考えるらしく、Googleで金正男を検索しようとすると「金正男 人気」とか出てくる。人気あるのか。
なので、そんな金正男さんの独占告白となればこんな楽しみなものはない。それに「エスタブリッシュメントの生活」を本人が語るのを読むのが好きなのだ。今のご時世、正男さんほどのエスタブリッシュメントもそういない。告白を読んでみて「あら、正男って案外しょうもない(orつまらない、orイヤな)ヤツなのね」とわかればそれはそれでよい。
しかし読み始めてみるとどうも思ったような本ではなかった。告白といっても、正男さんが語りおろしてるわけじゃなくて、正男さんとメールのやりとりをして何回か会った記者によるレポートと、そのメールの転載であった。
でもそれでもけっこう楽しく読んだ。ここに載ってるメールがすべてほんとに正男さんが書いたものだとして、読んでると「正男の良い人柄」がにじみ出ている。思った通りのいい人である。エライ人の息子で食うに困らず好き放題やってりゃ鷹揚にもなるだろうよ、というご意見もあるだろうが、いやなかなか、それでちゃんと育つってのも難しいもんだ。
そういう立場で「ああ、この人はいい人だ」と私が思っているのが皇太子だが(『テムズとともに――英国の二年間』という皇太子の著書を読んでしみじみ「この人はいい人だ」と感じいった。日本人必読の書であろう)、適度な浮き世離れして適度に世事に通じて、茫洋としたおかしさがあり、あらっと思わせられる鋭さもある、というあたりの印象がこのお二人は似ている。
書評などでもさかんに取り上げられているように、正男さんはこのたび北朝鮮で成された「三代世襲」には強く反対を表明していて、そもそも父上(と呼ぶらしい)金正日も三代世襲はアカンと言ってたそうで、まあふつうの感覚があればそうなるだろう。
しかし実際は三代世襲になっちゃったわけで、そのあたりについても「そうでもしないと体制が保たなかったんだろう。だからしょうがない。でもあくまで私はイヤ。でもやっぱりしょうがない」と分析するとこなんてのは、実際その通りなんだろうなと思うし、正男さんが「それダメ!」って言ったところでどうにもならない話で、だからなかなかリアリティがあると思わされた。
「それはお前みたいに甘いやつに、北朝鮮も仕方がなくてやってるのね~って油断させるための発言なんだよ!」と北朝鮮を嫌いな人はおっしゃるかもしれませんが、それならそれでいいんですけど、だとすると正男さんのやり方のさりげなさは絶妙の頃合いだ。
まあ、違うでしょうな。正男さんは体制からはずれちゃった息子さんに過ぎず、朝鮮労働党も「首領様の長男だしなあ、粛清するわけにもいかんし」と扱いに困るし(金正日父上は、偉大なる金日成よりもいろいろな面でやさしいというか、甘いというか、手ぬるいところがあると思う。って、ただ見た目だけで言ってるだけだが)、中国も「ムゲにはできんしなあ」と困る、そういう立場の人の、あんまり影響力のない発言にすぎないと思う。
その意味で、正男さんを過大評価すべきではない。評価するとしたら「あのルックスで案外人柄が良さそう」「あのルックスで案外アタマも悪くなさそう」「あのルックスで案外ふつうの思考ができる人」という「あのルックスで案外」点に絞るべきだろう。
私としては「正男さんがそういう人であった」という確認ができただけで、この本には価値があった。
しかし、それはそれとして、この本のぬるさというか、拙劣さというか、そっちには不満がいっぱいだ。
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