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黒沢清のWOWOW連ドラ、『贖罪』最終話は日本映画史を垂直に切り裂いた!

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 『贖罪』(WOWOW)第4話までは、誰が、なぜエミリを殺したのか、という謎解きを宙づりにしたまま、女性4人の独立したドラマが、想像を絶するスリルとサスペンスとともに描かれた。

 そして去る2月5日、最終話(第5話)が放映され、本シリーズが完結した(2月12日に再放送)。

 黒沢清監督自身、「決着をつける」と語っていたし、第4話の後半では、次回への布石として、由佳/池脇千鶴が犯人の情報を得たことをエミリの母・麻子/小泉今日子に告げた以上、犯人が暴かれ、真相が解明されることを、いやがうえにも期待して最終話を見た。

 結果はどうだったか、といえば、たしかに「決着はつけられた」。だが最終話の印象は、各回のそれと同様、とりわけ第1話を見ての驚愕に似て、「期待どおり」とか、すっきりしたカタルシスを得たというのとは、まったく違った。

 しいて言うなら、やはり予想外の連打をくらって何度もノックダウンされ、ふらふらと立ち上がったまま、鈍痛と快感が混じりあったようなエモーションのなか、ラストカットの、性も根も尽き果てたような足取りで歩いていく小泉今日子を呆然と眺めていた……そんな感じで第5話を見終わった。

 要するに本作も、想像をはるかに超えた、とんでもない怪物的な映画だったのだ(あえてTVドラマではなく「映画」と言おう!)。

 では、麻子/小泉今日子が主人公としてドラマの前面に出る第5話は、どう展開するのか。

 やや意外だったのは、エミリ殺しの犯人を、序盤で麻子があっさりと突きとめる点だ(以下、ネタバレあり)。

 麻子は由佳の情報をもとに、山梨にある、不登校児や引きこもり児童の養育施設・友愛フリースクールの主宰者、青木(香川照之)に会う。青木こそ、15年前のエミリ殺しの犯人だったのだが、しかも何と、彼は麻子と大学の同期生で、二人はかつて付き合っていた間柄であった――。

 物語はここから、麻子と青木をめぐる、「エミリ殺人事件以前の過去」に重心を移していくが、やがて、さらに驚くべき過去の事実が浮かび上がる……。

 15年前のエミリ殺人事件以前の過去、つまり<前日譚>で語られるのは、青木、麻子、そしてもう一人の大学同期生・秋恵の三角関係だ。3人は仲良しだったが、青木と秋恵が付き合っていることを知った麻子は、嫉妬に狂い、あらゆる卑劣な手段を使って二人の仲を引き裂き、ほぼ強引に青木を手に入れた。が、傷心の秋恵は麻子の眼前で自殺してしまう(そのさい救急車を呼ばなかった麻子は、事実上、秋恵を見殺しにしたと言える)。 この出来事によって青木は強いショックを受け、麻子もまた、深い罪の意識を背負いこむことになる(二人は腐れ縁を続ける)。

 その後、麻子は青木から、ひいては過去の一切から逃げ出すように、大手製作所の専務(田中哲司)と見合い結婚をする。すべてを失った青木は、自分の恋人を見殺しにしたうえ、自分を捨て、すべてを手に入れた(と彼には思われた)麻子に復讐する。麻子の娘エミリを殺し、凌辱することで。

 しかしやがて、青木は

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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