2012年02月16日
岩波書店は、おそらく数人しか採用しないだろう。それがこれだけ話題になる。もっとほかに報道することがないのだろうか。
もちろん、就職の機会均等は大事なことだ。しかし、ろくに本も読まない学生が大量に受けに来られても迷惑するという本音も理解できないわけではない。
私も、長年、エントリーシートを読まされ、また面接に駆り出された。出版社は、人間の他に資産はない。いい人材が採れるかどうかがその会社の将来を決める。その通りなのだが、30分ほどの面接で、出版社にとって必要な人材であるかどうかなど、本当のところはだれも分からない。だから運も大きい。
ただ、一目見て、「申し訳ないけれど、どうやっても出版社には合わない」という人が大半である。また、記念受験などといって受ける学生が、少なくないのも現実である。
理不尽なことにも頭を下げ、売れっ子執筆者のご機嫌をとり、楽しくもないお酒を飲み、さらに休日でも自宅で原稿を読んでいるのが、大方の編集者である。しかも、この不況である。日々、売れないと言われ、数字で責められる。また、コミックを刊行している大手出版社を除けば賃金水準も高くない。
にもかかわらず、編集者が「カッコイイ」「高級な」仕事に映るようになってしまった(イメージと実態がこれほど乖離している仕事も少ない)。そのせいかもしれないが、いわゆる偏差値の高い一流国立大学の学生がたくさん応募するようになった。大学院修了といった応募学生も珍しくない。
「○○先生のところにいって、原稿をもらってきてくれ」と命じたら、「自分の専攻と違う」という理由で断ったという笑えないエピソードがある。こういう人が入ってしまうこともあるので本当に困る。編集という仕事がまったく分かっていない例である。よほどの熱意や志がないと続かない。ちょっぴり「本好き」な程度で出来るものではない。
さらに出版業界は空前の大不況である。2011年の出版業界全体の売り上げは1兆8000億円前後という(ピーク時の1996年が2兆6546億円)。どこが潰れてもおかしくない。学生は、その実態を把握しているのだろうか。
応募する学生に文句を言っても仕方ない。むしろ、
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