2012年02月16日
なに、宣言だと?
記事を読むと、こういうことらしい。岩波書店は、この度、応募資格のひとつとして「岩波書店著者の紹介状あるいは岩波書店社員の紹介があること」を挙げて、それを公式ウェブサイトに掲示したというのだ。
なるほど、これが、記事を書く人間に言わせると「宣言」になるわけか。
たしかに公式ホームページでその旨明記したわけだから、宣言と言えば宣言ではある。でも、私は、この言い方には、若干の悪意を感じます。まるで、岩波書店が、機会均等という大切な近代の理念に挑戦状を叩きつけたみたいに聞こえますから。
と、案の定、厚労省が反応する。
《小宮山洋子厚生労働相は3日、閣議後の記者会見で「早急に事実関係を把握したい」と述べ、調査に乗り出す考えを明らかにした。》(2月3日:共同通信)
なんというのか、阿吽の呼吸ですよね。
そのうち背中に彫った桜吹雪の刺青でも見せてくれるんじゃないかという感じです。
以下、いちいち解説するのも面倒なので、第一報が報じられて以来のこの10日間ほどの間に、ネット上に浮かび上がってきた代表的な議論を、会話形式で列挙してみることにします。
「何をいまさら。出版業界なんて、30年も前からコネまみれじゃないか」
「だよな。親戚だらけでうっかり社内恋愛もできないって話を聞いたぞ」
「大名の側室選びとどこが違うんですかという話ですよ」
「マルコネミソだよ」
「でも、応募書類の封も開けずに落とす分を、あらかじめ募集枠からはずしてさしあげたという意味では、むしろ良心的な措置だったんじゃないのか?」
「っていうか、小宮山大臣が正義の味方をやってみたかったってだけの話でしょ?」
「そもそも1000人以上の応募があって、若干名しか取らない以上、オープンもへったくれもないわけだよ」
「それ以前に、岩波なんてこの先を考えれば沈みゆく船の典型なわけで、コネも無いヤツが応募する理由なんてひとつも無いだろ」
「だよな。賢いネズミは我先に逃げ出してる状況だっていうのに、どうして若い身空でそんな船に乗るんだ?」
「キミたちね。出版業界における能力というのは、どういう人脈を持ってるかということで、それって、要するにコネなわけでしょ? とすれば、岩波さんのこれは、ある意味親切な応募資格だよ」
「そう。無コネで入社したところで、ハイソサエティーの社員貴族の皆さんからハブられて悲しい思いをするだけなんだし」
「でもさ。仮にも社会的影響力のある文化の創造者であるところの言論機関が、前近代的な縁故採用を公式にアナウンスするということの意味は小さくないぞ」
2月8日になって掲載された朝日新聞の記事は、ちょと微妙なところに突っ込んでいる。
《岩波は「あくまで応募の際の条件で、採用の判断基準ではない」としている。》(朝日新聞デジタル:2月8日)
ははは。素敵な記事だ。特に、
「あくまでも応募の際の条件で、採用の判断基準ではない」
という岩波書店側のセリフがなんとも味わいぶかい。
何度も読み返してみてほしい。
だってこれ、「デートの誘いは断ったけど、結婚の可能性を否定したわけじゃない」みたいな話ですよね。
でも、そうだとして、会ってさえくれないものに、どうやってプロポーズすればいいんですか?
というよりも、岩波書店には、応募の段階で拒絶した就活生を採用する用意があるということなんだろうか。
それって、どういう枠なんだ?
ともかく、就活生は救われない。
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