2012年02月28日
2012年の今、映画館は次々と35ミリ映写機を撤去し、ハリウッド準拠のデジタル映写システムを導入し始めている。現在、スクリーンの8割を超すシネコンでは、2012年中に多くがデジタル映写システムを設置し、35ミリ映写機は1スクリーン分を残す程度だという。
映画のデジタル化は、トーキー、カラーに次ぐ第三の革命と言われる。これまでの2つの革命との決定的な違いは、一般の観客にはその変化が目に見えにくいことだ。例えば上映中の『ドラゴン・タトゥーの女』は6割強がDCP(ハリウッド準拠のデジタル素材)による上映だが、見た人のほとんどは違いに気づかないだろう。
両端に4つ穴(パーフォレーション)の開いた35ミリプリントは、1890年代にエジソンがイーストマン・コダックのフォーマットを採用してからそのまま世界基準となり、100年以上変わっていない。これが今なくなろうとしている。
このまま行くとどうなるのか。まず1スクリーン当たり1000万円前後と言われるデジタル映写システムの設置は、シネコンを運営する大手興行会社にさえ負担が大きい。
そこで、VPF(ヴァーチャル・プリント・フィー=仮想プリント費)という一種のリースシステムが米国からやってきた。これはリース会社がデジタル映写施設を設置する代わりに、配給会社が上映館ごとにリース会社に7~10万円を支払ってゆくというシステムだ。映画館も初期費用負担や月額の支払いがあるが、大半は配給会社が10年間かけて払ってゆく。デジタル化によって1本20~30万円のフィルムの現像費が浮く分を、配給会社が上映ごとに払うというもので、一見良さそうに見える。
ところが各館ごとに10万円を払ってゆくと、配給会社は地方の小さな映画館には映画を出せなくなってしまう。かつては1本のプリントを大都市から順番に回していたから興行収入が5万円でも大丈夫だったが、VPFを導入した映画館では赤字になってしまう。そしてアート系の映画館が少なくなれば、アート系の配給会社自体も危なくなってくる。そんな悪循環が生まれ始めている。
それ以外にも問題は多い。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください