メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS
 最近のコダック倒産のニュースでは、主に写真のデジタル化に対応できなかったことが書かれていたが、私が一番に考えたのは映画のデジタル化のことだった。映画は1990年代に編集作業がコンピューター上で行われるようになり、2000年代になって劇場用映画でもデジタルHDカメラによる撮影が始まったが、上映から35ミリフィルムが消え始めたのはごく最近のことだ。

 2012年の今、映画館は次々と35ミリ映写機を撤去し、ハリウッド準拠のデジタル映写システムを導入し始めている。現在、スクリーンの8割を超すシネコンでは、2012年中に多くがデジタル映写システムを設置し、35ミリ映写機は1スクリーン分を残す程度だという。

拡大35ミリフィルム用の映写機とブルーレイディスクなどのプロジェクター(手前)が並ぶ三重県・伊勢進富座の映写室

 映画のデジタル化は、トーキー、カラーに次ぐ第三の革命と言われる。これまでの2つの革命との決定的な違いは、一般の観客にはその変化が目に見えにくいことだ。例えば上映中の『ドラゴン・タトゥーの女』は6割強がDCP(ハリウッド準拠のデジタル素材)による上映だが、見た人のほとんどは違いに気づかないだろう。

 両端に4つ穴(パーフォレーション)の開いた35ミリプリントは、1890年代にエジソンがイーストマン・コダックのフォーマットを採用してからそのまま世界基準となり、100年以上変わっていない。これが今なくなろうとしている。

 このまま行くとどうなるのか。まず1スクリーン当たり1000万円前後と言われるデジタル映写システムの設置は、シネコンを運営する大手興行会社にさえ負担が大きい。

 そこで、VPF(ヴァーチャル・プリント・フィー=仮想プリント費)という一種のリースシステムが米国からやってきた。これはリース会社がデジタル映写施設を設置する代わりに、配給会社が上映館ごとにリース会社に7~10万円を支払ってゆくというシステムだ。映画館も初期費用負担や月額の支払いがあるが、大半は配給会社が10年間かけて払ってゆく。デジタル化によって1本20~30万円のフィルムの現像費が浮く分を、配給会社が上映ごとに払うというもので、一見良さそうに見える。

 ところが各館ごとに10万円を払ってゆくと、配給会社は地方の小さな映画館には映画を出せなくなってしまう。かつては1本のプリントを大都市から順番に回していたから興行収入が5万円でも大丈夫だったが、VPFを導入した映画館では赤字になってしまう。そしてアート系の映画館が少なくなれば、アート系の配給会社自体も危なくなってくる。そんな悪循環が生まれ始めている。

 それ以外にも問題は多い。

・・・ログインして読む
(残り:約1301文字/本文:約2358文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。訳書に『魔術師メリエス――映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)、共著に『日本映画史叢書15 日本映画の誕生』(岩本憲児編、森話社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

古賀太の記事

もっと見る