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【2011年・日本映画産業を考える】(1)急激に落ち込んだ映画産業は本当に危ういのか?

松谷創一郎 ライター、リサーチャー

●気を引き締める必要のある日本映画界

 映画は芸術作品として捉えられることも多いが、無論のこと産業としての側面も持つ。しかも、ひとつの作品に対して、場合によっては数十億円の予算がかけられる。小説やマンガ、音楽など他のコンテンツビジネスと明確に異なるのはこの点にこそある。採算性において、極めてリスクも大きいビジネスだ。

 さらに日本は、北米に次いで世界で2番目の大きな市場でもある。このような日本映画の産業的側面を、みすみす看過することはできない。そこで今回から4回に渡って、先日、日本映画製作者連盟(映連)から発表された産業統計(http://www.eiren.org/toukei/index.html)をもとに、2011年の映画産業を振り返ってみる。まず今回と次回は映画産業全体と、映画興行について見ていく。

 大震災に襲われた2011年は、映画界にとっても非常に厳しい一年となった。邦画・洋画を合わせた総興行収入は、前年比82.1%の1811億9700万円、入場者数は前年比83.0%の1億4472.6万人となった。2010年と比較すると、大幅なマイナスだ。過去10年の中でも最悪の数字だ(図1:過去20年の映画入場者数の推移)。

拡大【図1】 過去20年間の映画入場者数の推移

 しかし、この数字だけを見てことさらに映画産業の危機を唱えるのは、慎重になる必要がある。震災という不確定要素が生じ、さらに経済状況など複合的な要素が絡み合った結果だからだ。

 こうした結果を精査する前に前提的に押さえる必要があるのは、それよりも前の時代だ。中でも90年代(90~99年)を見逃すことはできない。この10年間は、日本映画産業において最低迷期とも言える厳しい時代であり、それを乗り越えて復活した先に現在があるからだ。

 興行収入は入場料金に左右されるので入場者数で見ていくと、90年代の年平均入場者数は1億3488.4万人にしか過ぎない。1996年には、日本の総人口を下回る1億1957.5万人にまで落ち込んだ。70年代が年平均1億8713.5万人、80年代が同1億5383.3万人だったことを考えると、どれほど低迷していたかがわかるだろう。

 斜陽とも言われた映画産業が復活を遂げたのは、2000年代だった。この10年の年間平均入場者数は1億6099万人にまで増えた。

 その要因は、主に二つ挙げられる。ひとつが、広くて前後に段差のある座席など充実した設備や、事前の座席予約も可能としたシネマ・コンプレックス(複合型映画館)の浸透だ。それに加えて、テレビ局や出版社、新聞社、広告代理店などの各種メディア企業が製作参加することによって、格段に一般性の高い映画が創られるようになり、同時に大規模な宣伝展開も可能となった。

 現在では当たり前のものとなったシネコンだが、90年代までの映画館は、古くて汚く寂れた印象が強い場所だった。劇場設備も、座席は狭くて、段差がないために前の人の頭が邪魔で観えにくく、そのために当時の外国映画の字幕は右上についていた。それは、シネコンとは比較にならない劣悪な環境だった。座席予約ができる映画館もほとんどなかった。

 シネコンは、こうした観客の不満を解消した。また、座席予約するほどの熱意や知識がなくて、満員だったり時間が合わなくて望みの映画を観られなかったライトユーザー層が、他の作品を選ぶことにも繋がった。シネコンは、ライト層の需要機会を取り逃がさないようにもなったのだ。

 90年代は、日本映画の作品内容も厳しかった。80年代から続く中高年層を中心とした製作は、若者の映画離れを進めた。当時の一般の若者にとっての日本映画とは、ほとんどが古臭いものにしか見えなかったのだ。アニメやホラー映画などは健闘していたが、当時の若者の間で日本映画が話題となることは多くなかった。

 また、バブル崩壊によって、前売り券を製作会社や関連会社が大量購入して売上を水増しする手法も、それこそ泡のように消えていった(現在でも一部でこの手法は行われている)。

 それは数字にもはっきりと表れている。90年代の日本映画の年間平均入場者数は、5123.9万人でしかない(※)。同年代の外国映画は同8364.5万人も動員しており、また80年代の日本映画は同7810.2万人、00年代は同6911.5万人なのと比べると、いかに日本映画が観られなかったかということがわかるだろう。

 さて、こうした過去を振り返り、2011年の数字を再考してみよう。昨年の総入場者数は1億4472.6万人だ。80年代の年間平均入場者数1億5383.3万人は下回るものの、90年代の同1億3488.4万人を1000万人以上も上回る。

 確かに、前年の2010年からは入場者数が約3000万人も減り、興行収入も約400億円のマイナスとなった。しかしこれは、2010年が過去30年間でもっとも好調な一年だったことによってそう見えるだけだ。

 一昨年は、『アバター』や『アリス・イン・ワンダーランド』、『トイ・ストーリー3』など、100億円を超える大ヒットの3D映画によって、映画館がとても活況だった。また、スタジオジブリの『借りぐらしのアリエッティ』やフジテレビ映画を中心に、日本映画の大ヒットも多く生まれた。リーマンショックからまだ間もない時期において、映画は逆風をものともしない状況だった。

 そこで、00年代10年間の年平均と比較すると、昨年の入場者数は89.9%、興行収入は87.9%にとどまる。前年との対比よりも、かなり緩和された数字となる。好調な日本映画を牽引してきた東宝の島谷能成社長が、「(総興行収入が)2001年に2000億円を初めて突破してからは、毎年、2000億円前後で推移している。昨年は基準値からマイナス10%ほど」と述べたのは、極めて冷静な分析だと言えるだろう。

 こうしたことから考えると、昨年の日本映画産業の状態は確かに悪かったが、悲観するほどではないと思える。必要なのは、この現実をしっかり見つめ、気を引き締めることであろう。

※日本映画産業統計をもとに筆者が算出

●減少に転じたスクリーン数

 こうした昨年の統計値で決して見逃せないのは、18年ぶりのスクリーン数の減少だ。

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筆者

松谷創一郎

松谷創一郎(まつたに・そういちろう) ライター、リサーチャー

ライター、リサーチャー。1974年生まれ。商業誌から社会学論文、企業PR誌まで幅広く執筆し、国内外各種企業のマーケティングリサーチも手がける。得意分野は、映画やマンガ、ファッションなどカルチャー全般、流行や社会現象分析、社会調査、映画やマンガ、テレビなどコンテンツビジネス業界について。著書に『SMAPはなぜ解散したのか』(SB新書)、『ギャルと不思議ちゃん論――女の子たちの三十年戦争』(原書房)。共著 に『どこか〈問題化〉される若者たち』(羽淵一代編、恒星社厚生閣)、『文化社会学の視座――のめりこむメディア文化とそこにある日常の文化』(南田勝也、辻泉編、ミネルヴァ書房)等。

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