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【2011年・日本映画産業を考える】(2)震災、リーマンショック、3D映画不振

松谷創一郎 ライター、リサーチャー

●震災の影響はどれほどあったのか?

 なぜ2011年は映画産業が不調だったのか。そこで、やはり見逃せないのは、東日本大震災の影響だ。

 直接被害にあった映画館も多い。仙台の泉コロナワールドや石巻岡田劇場など3サイト20スクリーンが閉館し、現在でも20スクリーンが休館したままだ。また、震災直後は関東圏でも建物が被害を受けたり、設備点検のために休館した劇場が相次いだ。

 たとえ営業していても、余震が多く、福島原発の状況もまだ流動的だった東日本で、積極的に映画館へ足を運ぼうとした人が相当数減ったことは間違いない。また、テレビCMや番組の中止も宣伝に大きな支障を来したと考えられる。

 なにより、3月11日は金曜日だった。映画は、通常土曜日が公開日だ。よってこの週末と前後1週に公開された映画は大きなダメージを被ることになった。しかもこの時期は、子供をターゲットとした春休み興行に入る時期でもあった。業界的には、夏休みと正月に次ぐ稼ぎどきだ。震災は、この時期を直撃してしまった。

 前週の5日には、『映画ドラえもん』が公開され、震災翌日の12日には『SP 革命篇』や『塔の上のラプンツェル』、『劇場版アニメ 忍たま乱太郎』、翌週の19日には『漫才ギャング』や『ONE PIECE 3D』、『映画 プリキュア』などが待機していた。

 また、スマトラ沖地震の津波を描いたクリント・イーストウッド監督の『ヒアアフター』の上映は打ち切られ、4月1日公開予定の『世界侵略:ロサンゼルス決戦』は公開が9月まで延期された。3月26日公開予定だった中国映画『唐山大地震─思い続けた32年─』にいたっては、いまだに公開が延期されたままだ。日本映画でも、秋公開予定だった『のぼうの城』が今年に公開延期された。

 震災前後に公開された作品がどれほどの影響を受けたか、具体的に試算するのは難しい。もし震災がなく通常に公開された場合の興行成績は、予測はできても仮定の域は出ないからだ。東宝・東映・松竹・角川書店の4社によって構成される日本映画製作者連盟(映連)の記者会見でも、震災の影響は指摘されたが、一方で、キネマ旬報総研の掛尾良夫のように前年との各月推移比較を踏まえて「直接的な影響はなかった」と捉える向きもある。

 だが、どちらにせよ、これらがどれほど確証があるかはわからない。前年とは、公開されている映画が異なるからだ。よって、ここでは先に挙げた主要作品を個別に見ていくに留める。

 震災前週に公開された『映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ 天使たち~』の興行収入は24.6億円(日本映画年間10位)だったが、声優陣が全面交代した過去5年の興行成績と比較すると、低いことがわかる。具体的には、前年(2010年)の『~人魚大海戦』が31.6億円、2009年の『新~宇宙開拓史』が24.5億円、2008年の『~緑の巨人伝』が33.7億円、2007年の『~新魔界大冒険』が35.4億円、2006年の『~恐竜2006』が32.8億円と、過去5年のうち4回30億円を突破している。これらを踏まえると、『新~鉄人兵団』の数字もさらに伸びていた可能性がある。

 震災翌日公開では、フジテレビドラマスピンオフ『SP 革命篇』が33.3億円(日本映画年間6位)、ディズニーアニメ『塔の上のラプンツェル』が25.6億円(外国映画同7位)、『劇場版アニメ 忍たま乱太郎』が9.6億円(日本映画同33位)となった。これらは過去作と比較できないが、ドラマが人気だった『SP』と、CGと3D効果が見事だった『ラプンツェル』は震災がなければ、さらに成績を伸ばせたと考えられる。

 翌週19日公開の品川ヒロシ監督『漫才ギャング』は8.4億円、アニメ『ONE PIECE 3D 麦わらチェイス/トリコ3D開幕!グルメアドベンチャー!!』は7.9億円、アニメ『プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花』は10.2億円となった。『ONE PIECE』は初の3Dだったが、特典のマンガ単行本によって48億円の興行成績を収めた前作に対し、大幅な落ち込みとなった。それ以前のシリーズ作と比較しても低い数字だ。

 前述したように、震災の影響を試算することは難しい。しかし個人的には、4月以降も含めて直接的・間接的に30~100億ほどの影響があったと推測している。映画には災害を扱ったディザスター・ムービー(災害映画)というジャンルがあるが、311は日本に住む人々が直接的・間接的に現実世界で日々災害と向きあうことを余儀なくされた。

 しかもそれは、阪神・淡路大震災のときと違い、地震による直接被害だけでなく津波と原発事故も招いた。地震・津波という目に見える恐怖と、放射能という目に見えない恐怖──それは、ディザスター・ムービーなどフィクションの想像力をはるかに超えるインパクトがあったのは言うまでもない。

 筆者も、震災直後はまったく映画を観る気が起こらなかった。実際、

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筆者

松谷創一郎

松谷創一郎(まつたに・そういちろう) ライター、リサーチャー

ライター、リサーチャー。1974年生まれ。商業誌から社会学論文、企業PR誌まで幅広く執筆し、国内外各種企業のマーケティングリサーチも手がける。得意分野は、映画やマンガ、ファッションなどカルチャー全般、流行や社会現象分析、社会調査、映画やマンガ、テレビなどコンテンツビジネス業界について。著書に『SMAPはなぜ解散したのか』(SB新書)、『ギャルと不思議ちゃん論――女の子たちの三十年戦争』(原書房)。共著 に『どこか〈問題化〉される若者たち』(羽淵一代編、恒星社厚生閣)、『文化社会学の視座――のめりこむメディア文化とそこにある日常の文化』(南田勝也、辻泉編、ミネルヴァ書房)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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