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【ポスト・デジタル革命の才人たち】松本弦人さんインタビュー:電子書籍サービス「BCCKS」(ブックス)で、何に挑戦しているんですか?(上)―― ウェブのストック型メディア

聞き手=服部桂(朝日新聞社ジャーナリスト学校シニア研究員)

ここ数年、電子書籍をめぐる「リアルタイムの大河ドラマ」が繰り広げられている。2011年夏、そこへ「BCCKS」(ブックス)が重要な役者の一人として登場した。本や雑誌のデザインをなりわいとするグラフィックデザイナーの松本弦人さんが主導するBCCKSのサービスを使えば、紙の本でも電子書籍でも、「誰でも、本を作れる、読める、売れる」という。BCCKSで何ができて、今後は何をしようとしているのか。紙の本や既存の出版業界、そして読者やユーザーと、どういう関係を築こうとしているのか。松本さんに聞いてみた。 

◆電子書籍ブームに感じる違和感◆

――まずは、松本さんの最新のお仕事である「BCCKS」(ブックス、http://bccks.jp/)の話から伺いましょう。2011年7月、個人的にマクルーハン生誕100年のイベントで配るために、私も、松本さんの「BCCKS」でマクルーハン名言集を60部作ってみました。私は古い活字業界の人間なので、まさか自分が電子書籍を作ることになるとは思ってもいなかったのですが、やってみると色々と発見がありました。

拡大松本弦人さん

松本 服部桂にそう言わせたのは、してやったりですね。『服部桂のマクルーハン本』を一緒に作れたのはオイラも楽しかったですよ。ちょっと意外だったんですが、服部さんが電子書籍的なモノにアンチというか斜に構えているだろうというのは想像していたけど、もう少しは関心があって、なにかのプロジェクトに関わっているんだと思っていました。

――もちろん。そして世間の関心も高い。今、電子書籍を普及させる旗印を立てるような本が多いですね。紙や活字の業界は大丈夫か、と危機感をあおってローカルな競争をやってもうけている人たちもいます。でも、私がマクルーハンを読む限り、電子書籍のそうしたもてはやされ方には少し違和感を覚えていました。マクルーハン的には、デジタル革命は出版業界などの小さい話ではなく、活字文化やそれによって支えられた「近代」が一度は滅びて更新されるような大きな流れが、実際には起きつつあるということです。これは、「電子書籍」という単語1つではとらえきれない大きな動きだと考えているのです。

松本 服部さんの立ち位置からすれば、特に日本国内の電子書籍をめぐる動きに批判的なのはうなずけます。

◆本質は「出版とは何か、活字とは何か」◆

――私は、朝日新聞社のIT担当記者を長くやってきて、出版局に在籍して雑誌の編集長をやったこともあります。自分でいくつか本も書いたし、翻訳もしました。電子書籍も含めた初期のデジタル媒体のここ数十年の動きもずっと見てきましたから、そうした分野の可能性は大いにあると思っています。でも、すぐに100%バラ色の世界がやってくるかというと、そうは思えない。

松本 そのあたりの事をちゃんと発言するのは服部桂の責務なんじゃないですか? もっと積極的に書いたり活動したりしてほしいな。

――そうしたいと思っています。でも、新聞社では、デジタル関係の扱いはどうしても小さくなってしまいます。

松本 そうなんでしょうね。新聞社や出版社の考え方だと、新しい考えや技術が出てきても、あれができるかも、こんなふうになるかも、といった曖昧で狭義な話になりがちです。それが商売の雛形だからある意味で仕方がないんだけど、「そもそも読書とは何か」「出版の本来と未来」みたいな問いかけがあまりに少ないですよね。スマホやタブレットの発売ラッシュと「電子書籍元年」の何度目かの到来によって、これまでほとんどの電子書籍未体験だった人々や業界が、「この程度か」「まあ読めなくはない」と、ようやく理解するとこに来たんだと感じますが、そういった認知や分析に紙メディアが旗を振る構造ではなくなっていますからね。

 今、GoogleやTwitterやFacebookは、最速のフロー型情報メディアとしてある領域で機能しています。100年以上積み重ねちゃった仕組みを抱えて、今さらそこと違う勝負をしろって言っても無理があるし、構造的に難しいですよね。

 BCCKSはウェブのストック型メディアをイメージして開発をしています。様々な個人やグループが、ずっと営んできた事、営んでいるなんてつもりもなく行われる日々の積み重ね。その営みのすべてを、画家に例えればレゾネ(作品総目録)のように、シンプルに美しく整理された状態で、コンピューターが無くならない限り再生可能な硬いデータフォーマットで、綴じる。綴じられたコンテンツは本人が消さない限り、未来永劫保存され、いつでもどこでも閲覧できる。そんなメディアサービスを目指しています。BCCKSはもちろん電子書籍サービスなんですが、他のそれとは大きくも小さくも違うところがあると思うので、この後話していきたいと思います。

◆10分で「本」ができる◆

――電子書籍には、紙の活字がデジタルに置き換わってデジタル端末で読める、ということ以上の意味がある。それを観念的にではなく生理的に理解できました。実際に松本さんがあの本をどうやって作ったのか、少し具体的に教えてください。

松本 服部さんがTwitterに書きためた「マクルーハン100選」のURLを送りつけてきたのがこの仕事の始まりでしたね。その時点で納品まで2週間を切っていたんだけど、原稿(この場合はTwitter)を見てみて、まあ、これなら簡単に本にできるなと思いました。マクルーハンらしい「いわゆる大文字の短文」ばかりなので、一番大きな本文サイズを指定してテキストを流しこみました。本文ページはこれで出来上がりです。1点ずつ、1ページずつ、テキストや画像の調整などしなくても、フォーマットにそって瞬時に美しくレイアウトされます。

あとは表紙をつくるだけ。今回は特別にカスタマイズデザインをほどこしました。テキストメインのシンプルな構成の本であれば、ものの10分で本が出来てしまいます。出来あがった本は、PC上でもスマートフォンでもiPadなどタブレット端末でも、すぐに閲覧することができます。

拡大服部桂が作った『マクルーハンはメッセージ』

 たしか、服部さんから原稿をもらって本の状態をPCやiPadで見せるまで数時間だったと思います。できた本をパスワード公開してウェブで服部さんに確認してもらいました。順番の変更やテキストの修正指示をいくつかもらい(つまり出版でいう「著者校正」です)、これを修正して最終の「OK」をもらい(つまり「校了」ですね)、電子書籍はこれで出来上がりです。ここまでで3日くらいだったと思います。

 最後はペーパー本(紙の本)です。BCCKSで作った本をペーパー本に印刷製本するには[ペーパー本を造る]ボタンを押すだけです。すると、ペーパー本のレイアウトに瞬時に展開されます。

 モニターで読むのと物理的な紙の本で読むのとでは、その読書体験は大きくも小さくも異なります。書体、サイズ、字間、行間、版面、ノンブルなどはもちろん、物理構造物として対応しなければならない様々な処理を自動的に行います。最後にRGB(=赤・緑・青)をCMYK(=シアン、マゼンタ、イエロー、黒)に変換(印刷用の4色分解)し、印刷用トンボが付き、ページネーションされ、製造費が計算され、印刷用の高解像度PDFがはき出され、納品先や部数とともに印刷所に発注される。それらがすべて自動で行われます。

 で、出来上がってきたのがこの『マクルーハンはメッセージ』です。仕様は、文庫版1色刷り128ページ、1冊740円でした。判型は、文庫、新書、10インチ(iPadと同じサイズ)、A4変形の4種類用意されています。

 今回の「出版」の流れをまとめると、「電子書籍と紙の本60部」という商品の、企画から納品までを2週間で行いました。工程と費やした時間は、企画1秒→打ち合わせ30分→本文デザイン30秒→DTPオペレーション15分→校正?分→修正オペレーション30分→表紙デザイン30分→電子出版→ペーパー本下版5秒→印刷製本→納品、となります。すげーですね。 ・・・続きを読む
(残り:約3033文字/本文:約6895文字)

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