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『カーネーション』に見る、渡辺あやの「分かり合えないことを分かり合う」関係

松谷創一郎 ライター、リサーチャー

 NHKの朝の連続ドラマ小説『カーネーション』が、そろそろ終わろうとしている。ファッションデザイナー・コシノ三姉妹を育てた小篠綾子をモデルとしたこの作品は、主人公・小原糸子(尾野真千子/夏木マリ)の生涯を描ききるようだ。この文章を書いてる3月26日(第146回)の時点では、物語は2005年4月まで進んだ。第一話では11歳だった糸子は、91歳になった。

 このドラマが発表されたとき、筆者は非常に大きな期待を寄せた。渡辺あやが脚本を手がけるからだ。

 おそらく渡辺の名は、一般的にはさほど知られていなかったはずだ。しかし、映画の世界ではその実力は折り紙つきだ。デビュー作の『ジョゼと虎と魚たち』(監督:犬童一心/2003年)、『メゾン・ド・ヒミコ』(監督:犬童一心/2005年)、『天然コケッコー』(監督:山下敦弘/2007年)、『ノーボーイズ、ノークライ』(監督:キム・ヨンナム/2009年)と、秀作を連発してきた。2000年代に復調した日本映画界のなかで、大きな存在感を示してきた。

 長らく映画を中心としてきた渡辺だったが、近年はNHKの単発ドラマを手掛けている。それが、2009年の『火の魚』(演出:黒崎博/NHK広島)と、2010年の『その街のこども』(演出:井上剛/NHK大阪)だ。この両作品が、『カーネーション』に繋がった。

 だが、これらの過去作のなかに「大ヒット」と呼べる作品はない。映画はすべて小規模公開で、『ジョゼと虎と魚たち』のようなスマッシュヒットもあったが、興行収入10億円を超えた作品はない。ドラマ2作も単発で、『火の魚』の視聴率は9.6%、『その街のこども』は3%台だった。大規模公開の映画やゴールデンタイムの連続ドラマなどの、メジャー畑を歩いてきたわけではないのだ。

 だからこそ、『カーネーション』は驚きだった。渡辺にとってはじめての連続ドラマが、もっとも注目されるNHKの連続ドラマ小説だったからだ。放映前は、正直どれほど渡辺が連ドラという形式に対応できるか不安があったのも確かだ。それは我々視聴者だけでなく、おそらく本人や制作側にとっても同じだったはずだ。

 しかし、その不安は大きな杞憂に終わった。一日15分で週6日というとても特殊な形式にも上手く対応した。15分のなかでのまとまりだけでなく、一週間のまとまりも丁寧につけていた。その構成は見事というほかない。

 しかも『カーネーション』には、渡辺がこれまでの作品で見せてきた特徴的な表現が随所に見られる。

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筆者

松谷創一郎

松谷創一郎(まつたに・そういちろう) ライター、リサーチャー

ライター、リサーチャー。1974年生まれ。商業誌から社会学論文、企業PR誌まで幅広く執筆し、国内外各種企業のマーケティングリサーチも手がける。得意分野は、映画やマンガ、ファッションなどカルチャー全般、流行や社会現象分析、社会調査、映画やマンガ、テレビなどコンテンツビジネス業界について。著書に『SMAPはなぜ解散したのか』(SB新書)、『ギャルと不思議ちゃん論――女の子たちの三十年戦争』(原書房)。共著 に『どこか〈問題化〉される若者たち』(羽淵一代編、恒星社厚生閣)、『文化社会学の視座――のめりこむメディア文化とそこにある日常の文化』(南田勝也、辻泉編、ミネルヴァ書房)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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