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【映画で知る世界の現実(1)】 『ルート・アイリッシュ』に見る民間軍事会社

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

 いつ頃からか、「映画で世界や人生について学ぶ」なんてことは野暮になってしまった。映画は娯楽だから学ぶものではないという考えが一般的だし、映画批評となると作品そのものを分析すべし、みたいな考えが支配している。でも実際はそんなことはない。我々はいつも映画を見て、これまで知らなかった世界を発見している。

 最近その思いを強くしたのが、3月31日に公開されるケン・ローチ監督の新作『ルート・アイリッシュ』だ。これはイラクでの民間兵(コントラクター)を描いたものだが、私はこの映画を見るまで、民間軍事会社(PMC=Private Military Company)の存在さえ知らなかった。イラクなどの危険地域に行く外国人兵士は、すべて各国の正式な軍隊だと思っていた。

『ルート・アイリッシュ』

 映画は民間兵としてイラクに行ったフランキーの葬儀から始まる。彼の幼馴染みのファーガスは、軍隊を退役後に高給だからとこの仕事を勧めた仲だ。ファーガスはフランキーのイラク人助手が使っていた携帯電話を入手し、そこに残した映像を見つける。その映像を見ているうちに、フランキーの死に疑問が生じ、秘密を探るうちにとんでもない事実に気がつく。

 まさかケン・ローチがイラク戦争を扱うとは思わなかった。彼は最初の長編『夜空に星のあるように』(1967)から、いつも労働者階級の日常を即興的な演出で描いてきた。シングルマザー、精神病患者、移民、失業者と描く対象は違っても、ある意味ではどの映画を見ても、おんなじだった。敵は政府か資本主義で、いつも恋愛や家族が救いになる。

 そんな彼が今世紀になって、大きく変わってきた。

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