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【2011年・日本映画産業を考える】(4)各映画会社、ビデオ市場の縮小、多すぎる公開本数

松谷創一郎 ライター、リサーチャー

●大手三社の動向

 前回に引き続き、今回も日本映画界に絞ってその産業動向を見ていこう。

 日本映画の興行成績を見ると、そこで目立つのは東宝・東映・松竹の大手だ。この3社に共通するのは、大規模な興行網を持っていることだ。その興行収入は、3社トータル67作品で855.9億円となる。日本映画全体の興行収入が995.3億円なので、この3社だけで86%を占める。

 中でも東宝は突出している。昨年の総興行収入は591.1億円だった。同社歴代最高だった一昨年の748.7億円からは21%も落ち込んだが、それでも日本映画全体の59.4%を占めている。

 近年の東宝は、同社・川村元気プロデューサーによる作品が意外なヒットを飛ばして注目されている。昨年も、川村による『モテキ』が興行収入22.2億円の大ヒットとなった。この作品は、テレビ東京で一昨年に放映されたドラマのスピンオフだったが、ネットしている地方局も多くなく、視聴率もさほど高くはなかった。しかし、大根仁監督のテンポの良い演出や、挿入されるさまざまなサブカルアイコン、そして、モテない男に「モテ期」が訪れるという企画は、的確に若者層に響いたのだった。

 過去に川村は、大ヒットとした『告白』や『悪人』、『デトロイト・メタル・シティ』、『SIREN』、『電車男』などを手がけてきた。それらの原作は、小説、マンガ、ゲーム、ネット小説と多種多様だ。川村は独自のアンテナで企画を見つけ、成功に結びつけてきた。それは、90年代までの映画界では見られなかったアンテナ感度の良さだ。

拡大『モテキ』。主人公の森山未來(左)と長澤まさみ (c)2011映画「モテキ」製作委員会

 しかし、それらの作品は、本来ならばフットワークの良いインディペンデントで企画されたきたような内容だ。特に『電車男』・『デトロイト・メタル・シティ』・『モテキ』の“非モテ三部作”がそうだ。90年代中期以降、女性のギャル化と並行して進んだ男の非モテ化現象を、映画で最初にすくいとったのは2005年の『電車男』だった。以降、インディペンデントでも非モテ(&童貞)映画はひとつの大きな流れとなったが、メジャーでそれをやって大ヒットを飛ばしたのはこの3作だけだ。しかもそのクオリティも高い。なかでも『モテキ』は、数多のインディペンデント非モテ映画を叩きのめすような力強さがある。

 2000年代中期以降の東宝の強さは、単に万人受けする作品だけでなく、このようにメジャーの世界から無視されてきたような企画を成功させたこともある。それは、従来(旧来)の“大衆”と言った概念からなかなか逃れられず停滞していた90年代までの日本映画界を考えれば、大きな進歩だと言えるだろう。

 次に東映だが、昨年の総興行収入は、前年比123.3%の167.3億円となった。現在の東映を支えるのは、昨年は3本も公開した『仮面ライダー』シリーズとアニメ『プリキュア』だ。さらにそこへ、近年はテレビドラマのスピンオフ『相棒』が加わった。昨年の『劇場版II』は、31.8億円の大ヒットとなった。

 なかでも特筆すべきは、『探偵はBARにいる』が12.2億円のヒットとなり、早くも続編が決定したことだろう。北海道を舞台にしたハードボイルドミステリー小説の映画化だが、『相棒』のスタッフによるものだった。テレビドラマで培った東映の制作力が、映画で次々と華を咲かせているという印象だ。

 しかし『探偵はBARにいる』には、東映の長所と短所が見え隠れもする。長所とは、こうした手堅い企画をしっかりとヒットに導いたことだが、短所とはその企画に斬新さがなく、その射程も中高年層を中心としてしまっていることだ。

 昨年は『デンデラ』という映画も東映は製作・配給したが、これなどは姥捨山の老婆たちが村を作り、熊と闘うという怪作だった。興行は惨憺たる結果に終わったが、その企画は斬新で、往年の大女優が何人も出演していることもあり一部からはとても注目された。しかし、予告編はまるで文芸映画のように地味な内容だった。こうしたことを続けているかぎり、東映が新たなマーケットを切り開くことはできない。

 松竹の年間興収は、前年比71.5%の97.5億円に落ち込んだ。期待された『こちら葛飾区亀有公園前派出所』や『一命』などが、ヒットに結びつかなかったのがその要因だ。東宝や東映のように、安定したアニメシリーズを持っていない松竹は、こうした失敗が強く響いてきてしまう。しかし、年末公開の『けいおん!』が17億円のヒットになり、今年も多くのアニメを公開予定なので、明るい兆しはある。また、『八日目の蝉』も12.4億円のヒットとなった。作品の質もとても高く、こうした水準をキープし続けることができれば良いのだが。

●インディペンデント映画会社の苦境

 もし2000年代の日本映画界でMVPを決めるなら、筆者は間違いなくアスミック・エースを推す。過去に、『ピンポン』、『ジョゼと虎と魚たち』、『メゾン・ド・ヒミコ』、『博士の愛した数式』、『天然コケッコー』、『さくらん』、『しゃべれども しゃべれども』などを製作・配給してきたインディペンデントの映画会社だ。ラインナップからもわかるように、同社の作品は企画が斬新で、クオリティも高い。大手三社に次ぐ存在として、角川映画と倒産したシネカノンとともに日本映画を盛り立ててきた。

 しかし、近年は苦しんでいる。つい最近も親会社の住友商事が、同社をべつの子会社であるJ-COMに売却した。近年は厳しい時期もあったが、なんとか乗り切ってヒット作も出していただけに、これは不安に思える事態だ。

 不振の要因は、やはりシネコンにある。そもそもシネコンは、大手三社により寡占状態にあった興行網に風穴を開けた存在だった。これによって、インディペンデントの会社でも10億円以上のヒットが可能となった。アスミックの単独配給作であれば、2002年の『ピンポン』が14億円、2006年の『博士の愛した数式』が12億円のヒットとなった。

 しかし、シネコンはあまりにも増えてしまった。結果、アスミック向きの100~200スクリーンの中規模興行が成立しなくなった。多くの予算をかけて大規模公開して大ヒットを狙う映画か、低予算でごく小規模に公開する作品以外は成立しにくくなったのだ。よってアスミックは、一昨年に松竹と共同配給で『大奥』(23.2億円)と、東宝単独配給で『ノルウェイの森』(14億円)を、昨年は松竹と『武士の家計簿』(15億円)を共同配給した。シネコン過当競争時代に対応するためだ。今年も、東宝とともに『僕等がいた』二部作と『のぼうの城』の3作を公開する予定だ。

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筆者

松谷創一郎

松谷創一郎(まつたに・そういちろう) ライター、リサーチャー

ライター、リサーチャー。1974年生まれ。商業誌から社会学論文、企業PR誌まで幅広く執筆し、国内外各種企業のマーケティングリサーチも手がける。得意分野は、映画やマンガ、ファッションなどカルチャー全般、流行や社会現象分析、社会調査、映画やマンガ、テレビなどコンテンツビジネス業界について。著書に『SMAPはなぜ解散したのか』(SB新書)、『ギャルと不思議ちゃん論――女の子たちの三十年戦争』(原書房)。共著 に『どこか〈問題化〉される若者たち』(羽淵一代編、恒星社厚生閣)、『文化社会学の視座――のめりこむメディア文化とそこにある日常の文化』(南田勝也、辻泉編、ミネルヴァ書房)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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