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『カーネーション』最終回に受けた衝撃

青木るえか エッセイスト

 もう考えることは何もない、すべてわかった、これで終わり、と思うんだがなあ……。

 いや、『カーネーション』のことなんですけど。なんべん『カーネーション』のこと考えるんだ。もう考えたくない、終わりにしましょう私たち、と思っていたというのに。

 でも、あの最終回を見てしまっては、考えざるをえない。

 そもそも、朝ドラの最終回を「見ようと思って見る」のなんか20年ぶりぐらいだ。

 カーネーションを(それなりに)熱心に見ていて「NHKの朝ドラにおける土曜日は蛇足回」などという定理を考えつき、これは、土曜日は休みで朝寝坊するもんで朝ドラも見逃すことが多い。しかし見逃したところで大勢に影響はない。たまに見てみると、なんか気の抜けたような内容が展開されている、ということなんだが(あらためて文章にしてみると当たり前みたいな話だった……)、『カーネーション』の最終回を、土曜日なのにわざわざ起き出して見てみて、いろいろと衝撃を受けた。

 土曜にはたいした内容の回をもってこない、というのと同様、朝ドラ最終回もあまり意味はない。半年間、毎日やってるドラマの終わりなので、こんなところで事件が起こったりすると終われないからだ(これも当たり前すぎる話です……)。

 たくさんの登場人物が揃って、笑いながら「チャンチャン♪」となるという、そのチャンチャン部分が朝ドラの最終回。別に見なくたって悔いを残すものではない。現にずっと見てないし、見たとおぼしき作品でもその最終回の有様を覚えていない。

 『カーネーション』最終回のビックリは、見ている時とその後と、いくつかあった。

 主人公がオノマチから夏木マリに変わってから、ガラッと内容が……というかドラマそのものが変わってしまったと、オノマチ時代のファンを嘆かせたものだが、そんな中で、小うるさい旧ファンをほろりとさせたのが、糸子(夏木マリ)が病院でファッションショー開くとか言いだして、それに出たいという末期ガン患者のお母さんのエピソードですわ。

 この末期ママがもう、脚本の渡辺あや好みの(勝手に言ってますが)ほんわりとやさしい、線の細い美人で、ガンの治療で自分がどんどん病みやつれていく、その姿を見て見舞いに連れられてきた子供たちがおびえているのが悲しい、子供たちに、母親が少しでも華やいでいるところを見せてやりたいから、どうか院内ファッションショーに出たい、と夏木マリに言うのですな。

 その演技も、あくまで静かな、野に咲く小さな白い花のような、そういう演技で、対する夏木マリが、ことさらな大阪弁と、ことさらな婆演技でちょっと雰囲気壊してたけど、でも末期ママの静かな存在感はけっこう圧倒的で、池袋東口の大衆居酒屋バッカス(安くてうまい)でアジの南蛮漬け食べながらチューハイ飲んでたら、隣のテーブルの、会社帰りのおっさんが、連れの同僚女子に「オレあれ泣いちゃったんだよね」とか言ってたのを聞いたぐらい、けっこう多くの人を感動の渦に巻き込んだらしい。

 で、『カーネーション』最終回、夏木マリは死んじゃってて、彼女の残した洋品店2階のサロンに、彼女ゆかりの人々が集まってだんじりの鑓(やり)回しを見る、という場面である。

 そこに来てんの。末期ママ。亭主と子供連れて。

 抗ガン剤の副作用で毛が抜けてしまって……という設定だったんで、病院では毛糸の帽子かぶってて、それが似合っていたというのに、だんじり見にきた末期ママ、帽子とって髪の毛伸ばして結んでみたら案外どうでもいいルックスの、そのへんのお母さんだった。

 その、「案外どうでもいい」というあたりにリアリティを追求したんだろうか。

 違うな。

 だって末期ガンであと少し……とか言われてたのが奇跡の生還してだんじり見物に来てるってのがそもそもリアリティ皆無だし。ママが登場した時には目を疑った。パッと出てパッと消えたんで、そのさりげなさでリアリティを出そうとしたんだろうか。

 ぜったい違う。

 とにかく、あまりの展開に、脚本家の後頭部をハリセンではたきたくなった。なんで最後にこういう、感動の涙を流した人をドッチラケにさせるようなエピソードを挿入しますかね。……あっ、これは、後半でいきない、本意でない夏木マリなんか投入されたことへの、抗議の一環なんだろうか。……たぶん違うと思う。

 最終回のラストシーンは、病院の談話室だか待合室だかみたいなところに、1人の老女が座ってテレビを見ている。それが『カーネーション』の第1話のオープニング。そこで(その日は最初に流れなかった)オープニングテーマ曲が流れて終わる、という、まあよくあるといえばある仕掛けの終わり方だった。

 で、その老女だ。

 その老女はいったい誰なのか。画面を見ているだけでは何も言われない。

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