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紀伊國屋書店×WEBRONZA 【ブックガイド】 世界を変えるためにソーシャルメディアがどう役立つか? 

荻上チキ(評論家、編集者)

東京・新宿の紀伊国屋書店では、ブックフェア「【じんぶんや第79講】 チーム「統治」を創造する 選 "『いいね!』から始まる社会をどう描くか――変革を想像するためのヒント"」を開催中です。そのフェアと合わせて、隣の棚では「αシノドス」編集長の荻上チキさんが選んだ「ソーシャルメディア」を考えるための本のフェアもおこなっています。ここでは荻上さんによるそのブックリストと「選定理由」を掲載します。なお、このブックフェアに関連して開かれた西田亮介さん(立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授、『「統治」を創造する――新しい公共/オープンガバメント/リーク社会』<春秋社>の編著者)とのトークセッションの抄録は、後日、WEBRONZAにアップします。(編集部)

荻上チキさん(右)と西田亮介さん=東京・新宿の紀伊国屋書店のブックフェアで

【総論】

ソーシャルメディアについて考えるためには、「ソーシャル」と「メディア」についての知識が必要だろうということで、両者への理解を深められる、それでいて(なるべく)読んでいて面白い本を選びました。

これらの本を読んで、「ソーシャルメディアがどう世界を変えるか」ではなく、「世界を変えるためにソーシャルメディアがどう役立つか」という視点を得ていただければ幸い。

この視点の違いは、「朴訥な技術決定論は無用。メディアと自生的秩序(環境)との相互関係を丹念に読み解く知を」というメッセージを理解する上で、とても大事になります。

一見すると、ソーシャルメディアに関係なさそうな本(障害学や経済学)が混じってますが、これらの本は、今後、社会問題を考える上で、非常に重要なツールとパラダイムを提供してくれるもの。このフェアと関係なしに面白い本ばかりなので、普通にオススメです。

■水越伸・吉見俊哉『メディア論』(放送大学教材)

メディア研究と名のつくものは、たいていはメディア史研究のことを指しているわけだけれど、実際に歴史から学べるものがたくさんあるのも確か。「新しいメディアはダメだ、昔はよかった」とほざくアホが未だ耐えませぬが、メディアの歴史を抑えておけば、そういう連中は単に、絶えず生成変化していくメディア環境の中で、「俺の馴染みのあるメディア環境が恋しいよう」といってるに過ぎないことがよく分かるでしょう。一種のホームシックみたいなもんです。「メディアシック」とでも名付けてやろうかな。だいたい、例えば東京都のいs(以下略)。というわけで、本著と、『メディアとしての電話』(吉見俊哉、若林幹夫、水越伸、弘文堂)とを合わせて読めば、メディア研究というジャンルのなんとなくの「土地勘」が見えてくると思う。

■荻上チキ『ウェブ炎上――ネット群集の暴走と可能性』(ちくま新書)

ネット社会について考えるための事例とキーワードをまとめた一冊。ブログ黎明期の事例が多いので、古びるかとおもいきや、ツイッターやフェイスブックが流行しても、だいたいみんな、同じような揉め事を起こし続けているということで、本書の結論部分は正しかったなあと読み返して思ったり。

■荻上チキ『社会的な身体――振る舞い・運動・お笑い・ゲーム』(講談社現代新書)

メディアを身体化することを、「社会的な身体化」と捉えれば、絶えず行われているニューメディア批判の根源である拒否反応というのもよく理解できる。時代が別の身体観を求めていることに対する拒否反応からも分かるように特定のメディアの使い手同士が対立する姿は、一種の部族闘争のようでもあるんだ。この本、なんかやたらと試験問題に使われます。師匠の石原千秋先生は、受験に使いやすい国語とは「適度な悪文」であるとかつて仰っていて、僕の本の中では確かにもっとも、「評論」っぽい一冊だなあと思った。最近はルポっぽい仕事が多いので。

■荻上チキ『セックスメディア30年史――欲望の革命児たち』(ちくま新書)

メディアの変遷の背景には、政治的要因、経済的要因、社会的要因、技術的要因が複雑にからみ合っているよという真面目な話を、セックスメディアを例に議論してみましたという本。僕としては、現在のセックスメディアの歴史を、当事者の証言とともにしっかりと残しておかないと、という動機で書いた面が強い。光が当たりにくい、隠れた「日本のものづくり」の歩みに、経営本として勇気づけられる人も多いんじゃないかな。

■荻上チキ『検証 東日本大震災の流言・デマ』(光文社新書)

インターネットはあくまでも道具なので、使い方によってはメリットもデメリットもある。災害時のネットの役割も重要なのだけれど、「次の災害」の際には、なるべくデメリットを減らしたい。そういう思いを込めて、緊急出版で出した一冊。廣井脩先生の流言研究本と合わせて読んでいただければ光栄、というか理解がとても深まると思う。

■「ガーディアン」特命取材チーム、デヴィッド・リー、ルーク・ハーディング(著)、月沢李歌子(訳)『ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争』(講談社)

メディアがジャーナリズムをどう変えるのか、を考えるためには、ウィキリークスというケースは避けて通れないので。

■東浩紀、飯田豊、三上洋、宮台真司、村上圭子、池田清彦、円堂都司昭、荻上チキ、加藤典洋、萱野稔人、西條剛央、酒井信、神保哲生、飯田哲也、武田徹、津田大介、広瀬弘忠『IT時代の震災と核被害』(インプレス選書)

■情報支援プロボノプラットフォーム『3.11 被災地の証言――情報行動調査で検証するデジタル大国・日本の盲点』(インプレスジャパン)

災害が起きた際に、ネットをどのように役立たせようとしてきたかを多角的に検証した本たち。前者には僕も寄稿してる。

■井上明人『ゲーミフィケーション――<ゲーム>がビジネスを変える』(NHK出版)

昨年くらいからのバズワード。「気づいたら動員されてた」という仕組みというのは、良きつけ悪きにつけ大きな力を持つので、ぜひ把握しておいてほしい重要な観点。

■與那覇潤『中国化する日本』(文藝春秋)

かつて文明がどこにいくかという議論は思想をベースとした批評の仕事だったようなきがするのだけれど、歴史学をベースに、将来の「モデル」について検討した本著はとっても刺激的。広く、ソーシャルの行く末について考えるためにも。ちなみに與那覇さんは、超クール&ビビッドなメガネ男子。

■ななころび やおき、フクダカヨ『ブエノスディアス、ニッポン――外国人が生きる「もうひとつのニッポン」』(ラティーナ)

■リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン(著)、遠藤真美(訳)『実践 行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択』(日経BP社)

■角岡伸彦『カニは横に歩く――自立障害者たちの半世紀』(講談社)

■鈴木大介『出会い系のシングルマザーたち――欲望と貧困のはざまで』(朝日新聞出版)

■スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー(著)、望月衛(訳)『ヤバい経済学[増補改訂版]』(東洋経済新報社)

■スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー(著)、望月衛(訳)『超ヤバい経済学』(東洋経済新報社)

■マイケル・オリバー、ボブ・サーペイ(著)、野中猛、河口尚子(訳)『障害学にもとづくソーシャルワーク』(金剛出版)

■アビジット・V・バナジー、エスター・デュフロ(著)、山形浩生(訳)『貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える』(みすず書房)

外国人、障害者、貧困、男女差別。どの領域で、議論や整備が不足しているかを知ること、そして僕らの社会がどこに向かっていくのかを考えることはとても大事。その際、良質なルポルタージュを読むこと、そして実証的なデータや理論を獲得することが鍵。特に障害学と経済学は、これからもっともっと重要なツールになっていくよ。

■東浩紀、濱野智史『ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇』(河出書房新社)

■東浩紀、濱野智史『ised 情報社会の倫理と設計 設計篇』(河出書房新社)

ネット社会において起こりうる様々な問題を多角的に検討した想定問答集、という感じ。分厚いけれど議事録だから読みやすいし、様々なディシプリンの語り手が参加しているので、使えるツールの網羅集という感覚でも読める。

■松永和紀『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)

■佐藤卓己『テレビ的教養――一億総博知化への系譜』(NTT出版)

ネットの時代だと言われるけれど、テレビ・新聞の力ってあなどれないんだぜ、ということを思い出していただきたく、この二冊を紹介。なんかね、ネットの時代だ、マスゴミだみたいな言説を聞くとね、「ネットで出まわってるコンテンツって、だいたいテレビ資本で作られてんじゃん」とか、「自前のウェブサイトって、炎上マーケ上等なクズコンテンツばっかじゃん」とか、「結局、新聞社のサイトのPVにすら、ほとんどのサイトは勝ててないじゃん」とか、いろいろ愚痴が溢れるものなのだよ。ただ石投げたいだけだろと。本気でその地位を奪おうとしてないだろと。マシなメディア環境を作ろうとなんてこれっぽっちも思ってないだろと。ぐちぐち。

■横田増生『アマゾン・ドット・コムの光と影』(情報センター出版局)

■横田増生『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(朝日文庫)※上記に大幅加筆

もはや古典。個別の労働そのものへの評価はさておいて、いややっぱ「中の人」がいないとどんなサービスだって回らないわけだから、モニターに写ってるものだけをみて「分析」してもしょうがないよね、と噛み締めていただきたく。

■ローズ・ジョージ(著)、大沢章子(訳)『トイレの話をしよう――世界65億人が抱える大問題』(NHK出版)

トイレひとつとっても、まだまだ改善の余地がある一方で、最低限の環境さえ整っていない面があるんだから、「新しくてすんげー発明」ばかりでなく、「地道で古典的だけど不可欠な改善」が多々あるんだぜ、ということを噛み締めていただきたく。(いただきたく、ばっかだな)

■デイヴィッド・ライアン(著)、田島泰彦、小笠原みどり(訳)『監視スタディーズ――「見ること」「見られること」の社会理論』(岩波書店)

ややブームが去った感のある「監視社会論」だけど、やっぱり論点そのものはおさえておかないと「デジタルネイティブひゃっほう」な牧歌的な楽観主義になってもこまるんで、読むべし。

■駒崎弘樹『「社会を変える」を仕事にする――社会起業家という生き方』(ちくま文庫)

プロダクトであれソリューションであれ、作り手のパトスが重要だと僕は常々思うわけだ。何の問題を解決するために、何を成すのか。「社会起業家」が注目されているけれど、その根源にはどういう思想が横たわっているのかを理解するために有用な一冊。であると同時に、やっぱりハッカーの方々にも、「社会」と向きあってほしいなあと思うんだよ。

●荻上チキ(おぎうえ・ちき) 1981年生まれ。評論家、編集者。社会学者・芹沢一也氏とともに株式会社「シノドス」を設立。メールマガジン「αシノドス」編集長、ニュースサイト「シノドス・ジャーナル」編集長をつとめるかたわら、テレビ番組やラジオ、インターネット、雑誌などを舞台に、メディア論を軸とした幅広い分野で発言を続けている。

●シノドスの公式ブログ「シノドス・ジャーナル」は、朝日新聞WEBRONZAと提携しています。