2012年04月24日
まさにベラミー警視の人物像の一面を的確に言いあてていると同時に、『刑事ベラミー』という映画の作風を簡潔に要約しているような文章である。
ベラミーも妻に向かって、ルレという人間に興味を持った、と言うシーンがあるが、それこそがルレの事件にベラミーが深く関わっていくきっかけになるのだ。
そういえば、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ譚などとはちがい、本作ではベラミーの妻が、夫の相談役になったり告白の聞き手になったりして、家庭生活がていねいに描かれるところも、メグレ物からの着想かもしれない(妻の入浴シーンが艶っぽく描かれたり、ベラミーが妻と義弟との仲を疑ったりするディテールもある。もっとも彼女は、ホームズ譚におけるワトソン医師に近い役どころだとも言えようが、しかしベラミーはメグレ同様、ホームズのような天才的な推理機械ではないし、彼の妻が彼よりも聡明さを発揮する場面もある)。
とはいえ、シムノンは当然ながら、性善説を掲げる「ヒューマンな」作家などではない。ときにその観察眼は読者をたじろがせるほど辛辣だ。
たとえば、
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