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麻原彰晃こそ、オウム事件の中心人物だ――「NHKスペシャル オウム真理教」を見て (上) 事件の本質を見抜けなかった警察、宗教学者  

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 3部構成のTV番組、「NHKスペシャル 未解決事件」シリーズの「オウム真理教 17年目の真実」「オウムVS警察 知られざる攻防」を見た(6月1日、2日の深夜に再放送)。地下鉄サリン・テロをはじめとする一連の凶悪事件を引き起こしつつ、国家転覆を企て武装化へと至ったオウム真理教の暴走のプロセスを、再現ドラマと実際に事件に関わった人々へのインタビューによって再検証した、なかなかの力作だった<星取り評:★★★☆☆>。

 ただし、事件以来ずっと興味本位のオウム・ウォッチャー(死語!?)だったにすぎない私にさえ、突っ込みが足りないと思える点が多々あったし、再現ドラマの部分は、役者たちのオーバーな演技がかえって嘘っぽく見えてシラケてしまった(「再現」によってホンモノに似せようとすればするほど、類似ではなく差異/違いが目立ってホンモノから遠ざかってしまう、という逆説は興味深いが、ここで詳述している余裕はない)。

 NHKは麻原彰晃(松本智津夫死刑囚、以下「麻原彰晃」)を演じた役者に「物まね」にならぬよう言ったというが、それでも「似せよう」とする作り手の意図が強すぎて滑稽感は否めなかった(不謹慎かもしれないが私は再現ドラマ中の麻原彰晃の姿を見、その声を耳にして、あまりのソックリさに吹いてしまった)。

拡大オウム真理教元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚

 だが、この番組のいちばんの収穫は、暴走した弟子たちが麻原を「担いで」一連の事件を引き起こしたのだという、以前から宗教学者・島田裕巳氏などが唱えていた通説のひとつが、完全にくつがえされた点にある。極秘捜査した警察当局や元信者らの証言、そしてNHK取材班が独自に収集した700本を超える教団の説法テープによって、である。

 すなわち一連のオウム事件は、もっぱら麻原彰晃によって主導されたことが、そして事件の最大のポイントが、社会への根深い復讐感情をうっ積させた麻原のメンタリティにあることが、この番組によって明らかにされたわけだ。そのことの意味は小さくない。

 もっとも私は、麻原の肥大化した妄想やルサンチマン(怨恨)こそがオウム事件の最大の原因であることを、かねて直感していた。そして私は、この番組を見てやはりそうだったのか、とは思わずに、自分のような宗教学や精神医学や社会学の門外漢ですら、そのことを地下鉄サリン事件直後に察知しえたのだから、なぜオウム事件解明に当たった警察その他のプロフェッショナルたちがもっと早くそれに気づかなかったのかと、少々不思議な気持にさえなった。

 むろん、そのように断定する証拠や資料が不足していた、ということはあろうが、旧・上九一色村の教団施設への警察による強制捜査の遅れについてと同様、オウムの犯した重大犯罪の首謀者が麻原であることを、警察はなぜもっと早い段階に見抜けなかったのか、という残念な思いに、番組を見て改めてとらえられた。

 とはいうものの、麻原のメンタリティが今後も容易には解明されないことは、想像に難くない。なにしろ麻原本人が「廃人化」し、何も語ら(語れ?)ない状態にある、という大きな壁がある。しかしそれにしても、麻原を死刑にしてしまっては、くだんの謎の解明は大きく遠のくことだけは確かではないか。まあ、半ば冗談めかしていえば、あえて不可知論を決めこみ、さっさと麻原を処刑して忘れ去り、「なかったこと」にしてしまう、という「戦略」もあるだろうが……。

 さて以下に、私の心に引っかかっている、麻原の心性やオウム信者に関するいくつかのポイントを、断章形式で記しておこう。 ・・・ログインして読む
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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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