2012年06月09日
と、いきなり訊かれる。
意味がわからない。
先方は、こっちが当然「推しメン」を決めていると思い決めていて、それが誰であるのかを尋ねているつもりらしい。
「えーと、そのオシメンというのはもしかしてAKB48の関係のなにかですか?」
「そうです。イチオシのメンバーが誰かということです」
なるほど。
「いません」
「は?」
「だからいません」
ケンカを売っているつもりは無いのだが、なんとなく場の空気が悪くなる。
せっかく、気のおけない若い人が、友好のしるしに、当たりさわりのない話題を振ってくれたのに、それに対して年長者である男が、卓袱台を返すみたいな対応を示したという感じの、いやなムードになっている。
「おきらいですか?」
「いや、好きとか嫌いとか言う以前に、あの年頃の女の子がああいう感じで群れてるのを、私のような年齢の人間に見分けろというのがそもそも無茶な話だってことです」
「おわかりにならない、と?」
「たとえば、おたくがモンゴルを旅行していたとする。で、ウランバートルの空港で知り合った現地の人間と親しくなったとします」
「何の話ですか?」
「いや、だからそのモンゴルで友達になったなんたらドルジさんだとかいうおじさんに写真を見せられたと思ってくださいよ」
「わかりました」
「で、写真を見せながら先方は言うわけです。どの子が一番美人だと思いますかって」
「なるほど」
「あなたは答えられますか?」
「そりゃ、答えますとも。写真見て、自分がきれいだと思う女の子の顔を指差しますよ。隠したって仕方がないじゃないですか」
「でもね。そのモンゴルのおじさんがあなたに見せてる写真は、彼の財産であるところの、48匹の羊の写真ですよ。ヒツジ。あのメエメエ鳴くヒツジです」
「……は?」
「だから、ヒツジ・フォーティーエイトなわけです」
「……だとしたら、美人もへったくれもないじゃないですか。羊なんて、みんなおんなじ顔してるんだから」
「でしょ?」
「ですよ」
「だから、私にとっても、それは同じことで、見たこともない女の子の顔を48個並べられても区別がつかないわけです。というよりも、比べてみるということが、こっちにとっては大きな負担なわけですよ」
「……」
もちろん、私とて、若い人たちの気軽な質問に対して、いちいちこんなふうに突っかかっているわけではない。
でも、
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