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【ポスト・デジタル革命の才人たち】 むぎばやしひろこ(上)――新しいARの可能性を追求したい

聞き手=服部桂(朝日新聞社ジャーナリスト学校シニア研究員)

服部桂

■ARをビジネスで実現するために起業

――「モシモカメラ」という面白いソフトも出していましたね。

むぎばやし 私の会社はもともと、カメラから取り込んだ画像を自動的に解析してそこに様々なアルゴリズムでCGを合成する「Symphonic Motionエンジン」という独自に開発したエンジンを元に、いわゆるAR(拡張現実:オーグメンテッド・リアリティー)のソフトを作ることから始まっています。

拡大モシモカメラ

 ARというのは、現実のいろいろな風景や物に、コンピューターでそれらに関する付加的な情報を加えることで現実を拡張(オーグメント)する技術です。例えば、今いる場所の風景をデジカメやスマホのカメラで撮影すると、ビルの画像に、そこにどういう店が入っているかが重ねて表示されたり、店の画像に今日のバーゲンの情報が付加されたりしていると便利ですよね。

 現在いる場所を写すといろいろ付加情報を出してナビゲーションしてくれるソフトとしては、「セカイカメラ」などが有名ですが、アイティアでは新しいARの可能性を追求したいと思っています。

 創業当時は「Symphonic Motionエンジン」を使って、インタラクティブ・デジタルサイネージのソフトウエア開発事業を中心に展開していました。その後、Android OSがでてきたので、エンジンをAndroidに移植して、「ARで撮影エンターテインメント」を実現するために開発したのが、モシモカメラというアプリケーションです。

拡大モシモカメラ

 これは「もしも彼女がキラキラ輝いたら?……」などの想像を、現実の写真に重ねられるARです。実際はスマホのカメラ映像に、被写体の動きに反応してリアルタイムで好きなエフェクトをかけられるソフトなんです。例えばいま私が服部さんを写しますよね。手を振ってもらっていいですか。すると動いた手の部分に、小鳥のCGがとまっている画像になっていますよね。こうした、現実の画像にいろいろな遊びの要素を加えた動画を撮影できます。

――本当だ。手の動きに合わせて鳥も動きますね。普通の写真や動画にいろんな要素が加わって、現実の姿が別の世界になりますね。これは遊べる。

むぎばやし 従来は撮影したデータを後からパソコンに取り込んで、動画編集ソフトを利用して、いろいろなエフェクトをかけていましたよね。モシモカメラでは、エフェクトを選んで撮影ボタンを押すだけで、簡単にエフェクト付きの動画や静止画を撮影できます。

拡大モシモカメラ

 もともとこのエンジンは、画像の中から顔や特定の動きや輪郭などの対象を、リアルタイムで自動的に検出します。例えば、動いている手を自動的に認識すれば、それに合わせて小鳥やいろいろな画像を付加することができますよね。ARではまず現実の画像を識別して、どこに誰がいるかが分かった上で、それに関連する情報を付加してあげる、ということをしないといけないんです。例えば動きを認識して、少し時間を遅らせて元の画像にかぶせると、不思議な1人EXILEみたいな映像も作れますよ(笑)。同じエンジンを使っていますが、アニメーションのアルゴリズムはエフェクトごとに変えてあります。

 またシャープのAQUOS PHONEという3D対応のAndroid携帯向けに、3Dエフェクトを作っているんです。エフェクトをかけると、だいだい30センチくらい前にせり出してくるような感じの映像が見えると思うんですけど、分かりますか?

 また2人で写真を撮ると、相性を占うことができる機能が付いています。(同席の2人の編集者に)例えば、お2人を撮ってもいいですか? 相性、相当悪かったりして(笑)、どきどきしますね。

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編集者 あれ、仲良しになっちゃった。なんか微妙なことに……(笑)。

むぎばやし あと例えば、暗いところでライトに反応して、その軌跡を記録して絵が描けるような機能や、いろいろな言葉(ハッピーバースデー等)が書かれているテンプレートがあって、そこに自分の写真を埋め込むことができる、プリクラみたいな画像も作れるソフトが付いています。

――モシモカメラのソフトは、どこで売っているんですか?

むぎばやし もともとプリインストールされて販売されているソフトなんです。シャープ、富士通、東芝モバイルコミュニケーションズ、NECさんなどのメーカーの端末に入っていて、現在は600万ライセンスを突破しています。2011年から出荷されたAndroidスマートフォンの6割くらいには入っていると思います。

――けっこうなシェアですね。利用者の反応はどうですか? ネットで反応を調べたら、「子どもの写真に使ってみたら面白さがよく分かった」など、女性の反応が良かったですね。

むぎばやし ありがとうございます。静止画にも動画にも対応しているので、ペットの撮影に使ったり、カラオケの動画にエフェクトを入れたり、子どもさんの画像をかわいく加工したりと、さまざまなシチュエーションで使っていただいています。

――モシモカメラの写真で、コンテストをやったら面白いですね。

むぎばやし そうですね、やってみたいです。今まで、開発してリリースするので精一杯だったので、余裕ができたところで、もうちょっとこちらも楽しんで、新しい使い方の提案をしたいと思っています。(つづく)

■むぎばやしひろこ アイティア株式会社代表取締役。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)メディア表現修士課程修了。エイベックス株式会社(現エイベックス・エンタテイメント株式会社)で、デジタルコンテンツ・プロデューサーとして、日本初となった音楽配信事業の立ち上げを含め、新規事業開発に従事。2006年、これまでの経験を生かし、アイティア株式会社を設立。独自AR(拡張現実)技術をつかったAndroidスマホ向け「モシモカメラ」アプリが600万ライセンスを超えるヒットに。趣味は、電子楽器とゴルフとワイン。著書に『かわいいサイエンス』など。 
*むぎばやしひろこさんは2015年12月22日にお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りします。

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