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【ポスト・デジタル革命の才人たち】 むぎばやしひろこ(下)――生きることの工夫はそのままアート

聞き手=服部桂(朝日新聞社ジャーナリスト学校シニア研究員)

服部桂

――そういえば昔、むぎばやしさんに雑誌「モノマガジン」の「かわいいサイエンス」という、テクノロジー関連の連載の取材を受けたことがありましたね。

むぎばやし あれはまさしく、さっき服部さんがおっしゃっていた、「女の人はテクノロジーとは疎遠」というような世間の物の見方に、アンチテーゼを唱えたくてやっていた連載なんです。

拡大連載していた雑誌「モノマガジン」

 女性は昔、選挙権もなかったし、今でも子どもができたら仕事はやるべきじゃないと考える人もたくさんいるし、実は未だに男性と違って結構いろいろな制約が残っているでしょう。それに不平不満を言うことは簡単だし、逆にそれを我慢することもできると思うんですけれど、私は我慢するより努力して変えていくタイプなんです。でもただ頑張っているだけじゃ何も変わらないし、そこで何かこう、ちょっとテクノロジーの出番があるかなと(笑)。

――「かわいいサイエンス」は女性の視点で新しいテクノロジーを紹介しては切っていく、すごく長く続いていたユニークな連載でしたね。

むぎばやし 12年以上やっていた、「モノマガジン」で一番のご長寿連載でした。最初に取材したのが、ソニーのコンピュータサイエンス研究所のアイボ(AIBO)。プロトタイプだったときで、まだ全部機械がむき出しで、ぴかぴか光ってガシャガシャ歩くだけのラジコンの犬みたいだったんです。担当の北野宏明さんにお話を伺いました。ロボットは好きで、その後も日本全国津々浦々のロボットに何十台も会いに行きました。

――連載の中で特に面白かったのは?

むぎばやし 坂村健さんのやられている、ユビキタス・コンピューティングは面白かったですね。あとは電気自動車、ITS(高度交通システム)、量子コンピューティングとか。「かわいいサイエンス」の連載は、一冊の本になって出版もしました。

拡大「モノマガジン」で紹介した脳波によるロボット操作

――読者からはどういう反応が来たんですか。

むぎばやし 「何かドラえもんを地でいってるみたい」「科学技術って難しそうと思っていたけれど、夢があっておもしろいね」と言ってもらえることが結構ありました。

 私は映画の中では「メリー・ポピンズ」が好きなんです。初期の実写とアニメーションを合成したディズニー映画です。主人公の家庭教師のポピンズが空から下りてきて、魔法をつかって、大きな鞄の中からいろいろなものを出してきては、子どもたちを不思議な世界に連れていってくれるお話です。その映像は現実空間とアニメーションのファンタジーの世界が合成されていて、私の中ではまさしくARみたいな感じなんです。インターネットやデジタルの世界も、まさしくああいう感覚があるなと思っています。

 「ひと匙の砂糖があるだけで、苦い薬ものめるのよ。ただちょっぴり砂糖があるだけで、楽しくなるわ」と言っている、メリー・ポピンズのようになるのが夢ですね。仕事を通して、みんなの毎日の生活を魅力的にしたり、ちょっと自由にしたり、楽しくしたりできる手段になるものを提供したいと思っているんです。フランス人の言う「アール・ド・ヴィーヴル」、生きることの工夫はそのままアート……みたいなイメージですね。例えばテーブルセッティングでお花を飾ったり、ファッションを楽しんだりするのも同じ感覚です。そういうものとまったく同レベルで、テクノロジーを使いこなすことで、今までよりワンランク上の自分らしい豊かな暮らしや自由を得たりできる。それもただの添え物としてじゃなくて、より良い物を勧めて生活を変えるような仕事をしたいんです。