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では、あらためて巨神兵偏愛者宣言を

鈴木繁 朝日新聞編集委員(文化)

 宮崎アニメがメジャータイトルと化すきっかけになった1984年公開の「風の谷のナウシカ」。当時27歳の私にとって、この映画の最大のスペクタクルは、過去の産業文明を滅ぼした伝説の生物兵器、「巨神兵」が蘇り、王蟲(オーム)の大群に向かい牙の生えた顎をぐわっと開いて、プロトンビームを浴びせかける場面だった。

 育成が不十分だったため、やっとこさ2発撃ったただけで巨神兵はどろどろに溶けて崩れ落ち、クールな脇役として印象深いクロトワに「腐ってやがる」と言われてしまうのだが、そこは腐っても巨神兵、無数の王蟲たちの突進が作った「大海嘯」の波頭に目の眩むような一撃を与える姿は、恐ろしくもの凄く、もし完全体として立ったならば、地上に残る生き物はないだろう、世界が1週間で完全消滅した「火の7日間」の伝承も誇張ではあるまい、と思わせた。

拡大竹谷隆之作「巨神兵像」 (c)2012 二馬力・G

 その畏怖すべき姿は、オープニング画面に一瞬見られる。熱射の陽炎に揺れながら滅びゆく世界の向こう、空を覆って近づいてくる無数の黒い影として。

 これら二様の巨神兵の姿に、私、すなわち「過去の文明」に属する者は、震撼し、同時に切望した。見たい。巨神兵が悪く愚かな「過去の文明」を滅ぼしていくさまを。「ナウシカ外伝・火の7日間」を。

 とは言っても、実現は期待できなかった。宮崎駿監督は原作の方で、風の谷のその後を描いていて、ここでは巨神兵「オーマ」が活躍している。彼は、映画版で仲間が携えていた光放つ鑓を捨て、その手にナウシカを包んで、約束の地へと向かう。

 だから、東京都江東区三好の東京都現代美術館で先日始まった企画展「特撮博物館」(10月8日まで)で巨神兵の完全体が実写で見られると知った時には、産業文明の世界にも願いを聞き届ける超越者が存在するのかと驚愕し感謝した。

 「特撮博物館」館長の庵野秀明は、映画版ナウシカで巨神兵登場の場面を作画したその人。実写版の監督は庵野館長の盟友で、庵野の代表作「新世紀エヴァンゲリオン」主人公碇シンジにその名を与えた特撮のエキスパート樋口真嗣。もはや言うことはない。

 館内のホールで終日上映されている「巨神兵東京に現わる」は、わずか9分の小品だが、間違いなく「火の7日間」の正伝だった。

 庵野は巨神兵に魅入られ、「新世紀エヴァンゲリオン」で巨神兵の出てくる夢の続きを見ようとした。「巨神兵東京に現わる」は、映画版ナウシカからほぼ30年を隔てて受肉した夢だ。オレの夢とのシンクロ率は100%! どうしようもない悪夢だけどな。あははは。

 ……どうしてこんなに惹かれなくちゃならないんだろう。

 巨神兵とは何だ?

 「風の谷のナウシカ」の構図をもう一度さらってみようか。 ・・・ログインして読む
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筆者

鈴木繁

鈴木繁(すずき・しげる) 朝日新聞編集委員(文化)

1957年生まれ。1983年、朝日新聞社入社。1987年から学芸部員となり、家庭、文化、娯楽、読書面などを歴任。2004~07年、文化部長。「AERA」シニアライター、オピニオン編集グループ記者などを経て、2011年4月から編集委員。担当は読書と文化一般。著書に『時代はへらふにゃ三白眼――朝日新聞〈さんでーすぽっと〉Vintage’90-’87』(第三書館)、編著に『漫画鏡 平成コミックワールド探検』(河出書房新社)。共著に『会社のフシギ――肩こり女は今日もお仕事!』(朝日新聞社くらしスタイル班/編、中央公論社)。2016年11月、死去。

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