聞き手=服部桂(朝日新聞社ジャーナリスト学校シニア研究員)
――現地ではどういう作業をされているんですか。
宮前 だいたい現地には1週間前に入って、服のスタイリングを組んだり、オーディションでモデルを選んだり、ショーの演出の打ち合わせをしたりして、全部でおよそ2週間ぐらい滞在します。今回は300人以上モデルを見て選びました。モデルたちはシーズンごとに、ニューヨーク、ミラノ、ロンドンと世界中をまわっているのですが、入れ替わりが激しい世界なので、毎回新顔を含めて選ばないといけません。
――どういう基準で選ぶんですか。
宮前 本当にモデルの選択って重要だと思うのです。服は着る人によってそのイメージが、ガラリと変わります。かなり雰囲気が左右されるので、まず女性像を決めてから選ぶのです。例えばある赤い服を肌の白い人が着るのか健康的な感じの人が着るのかで、エレガントになったり逆にスポーティーになったりするので気を配ります。前の春夏シーズンは、花が開くような軽く抽象的な感じを追求しましたが、今シーズンは鉱物をイメージした少し力強いイメージだったので、だいたいは強さを感じる女性をキャスティングしました。
――それ以前にも、かなりの準備をされると思うのですが。
宮前 2011年10月に最初のパリコレが終わって、自分の中ではまずリセットして、秋冬のコレクションのイメージを考え始めました。しかし一番大変なのは、イッセイ ミヤケが他のメゾンやデザイナーと違って、素材づくりから手掛けていることなのです。つまり、買ってきた素材をただ料理するのではなく、自分たちが現場である畑に行って耕して、種を撒いて植えて、素材自体を育てる作業までやっているということです。
ここで現場というのは、機屋さんや染め屋さんです。しかし、さらに本当の川上に行って、糸から開発しようということになると、本当に長期間の話になります。年2回のコレクションに合わせて、毎回新しいものを作っていくのは非常に大変な話です。
――今回のパリコレのビデオを見ると、舞台の上で竿にかかった布きれにスチームアイロンで蒸気をかけると、徐々に服の形になっていくという、まるで手品を見ているような素材が使われていましたね。