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【映画で知る世界の現実(4)】 『かぞくのくに』と『トガニ』に学ぶ朝鮮半島と日本

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

 8月4日(土)に公開される日本映画『かぞくのくに』と韓国映画『トガニ 幼き瞳の告発』は、どちらも現在の朝鮮半島と日本について改めて考えるうえで、衝撃的な事実を教えてくれる。

 『かぞくのくに』は、北朝鮮に渡った長男ソンホが、病気の治療のために一時帰国する在日の家族を描く。映画の冒頭に、1959年から84年まで、9万人以上の在日コリアンが「帰国事業」として北朝鮮に渡った事実が字幕で示される。長男の25年ぶりの帰国に大騒ぎする家族と対照的に、井浦新演じるソンホは静かだ。淡々とした表情で病院の精密検査を受けたり、在日の友人たちと同窓会をしたり、妹と買い物をしたりの毎日を送っているうちに、突然帰国命令が出る。

『かぞくのくに』 (C)2011「かぞくのくに」製作委員会

 映画を見た時は、いくらなんでも誇張しているのではないかと思った。だが監督は在日コリアンのヨン・ヤンヒで、すべて監督の身に起こったできごとだという。実際に70年代前半に3人の兄が北朝鮮に渡り、その一人が病気治療で日本に一時帰国したらしい。

 手持ちのカメラが、登場人物たちの心に寄り添うように、東京の下町の静かな風景を写してゆく。とりわけ、多くを語らないソンホ役の井浦新がいい。彼は25年ぶりの東京を見て家族や友人に再会しながらも、常に北朝鮮のことを考えてか物思いに沈んでいる。北朝鮮に戻る前日に、かつてお互いが好きだったスニにもう一度会い、二人で坂道を無言で歩くシーンや、成田に向かう車でつぶやく「白いブランコ」を口ずさむシーンなど、抑制の効いた演出が光る。

 妹リエ役の安藤サクラは、静かなソンホと対照的におしゃべりだ。疑問や怒りを体全体で表現するように演じている。朝鮮総連幹部の頑固な父役の津嘉山正種や、父と子供たちの間に立つ母役の宮崎美子、北朝鮮からの監視役のヤン・イクチュン(『息もできない』の監督・主演!)など、存在の雰囲気や小さな動作だけで感情を表現する名優が揃っている。

 『トガニ』は、韓国の聴覚障害者学校に起きた性的虐待事件を描く。こちらは純粋な韓国映画で本来日本とは全く関係ないのだが、現在の大津市の事件など、日本で多発している学校内いじめの問題を考えると、とても他人事とは思えない。

 コン・ユ演じるイノ教師はソウル郊外の学校に着任と同時に賄賂を求められ、すぐにその学校が異常なことを悟る。それから彼は、無抵抗の生徒たちに対して校長や教師が性的暴力を振るっていることを、少しずつ発見してゆく。

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