聞き手=服部桂(朝日新聞社ジャーナリスト学校シニア研究員)
――最近のファッションって、どんどん変わって捉えどころがないですね。
宮前 今のファッションはとても細分化されていると思います。昔みたいに、あるシーズンではこのスタイルという統一感がなくなり、ファッションだけじゃなくて、音楽でも何でもすべてカルチャー自体が細かく分かれている状態だと思いますね。
東京の街でも、原宿とか渋谷、銀座ではトレンドが違います。昔はファッションの情報を知ろうと思うと、書店に行ってファッション雑誌を見て情報が揃うという、非常にシンプルなものだったと思いますが、それが今ではものすごく多様化していますよね。
――ちょっと変わってきたと思うのは、銀座のような高級店が集まっている場所にもユニクロやファストファッションの店ができたことですね。ユニクロには当初、若い人から高齢の方まで、ありとあらゆる人が来ていましたが。
宮前 それと同じことは、世界中で起きていると思います。ニューヨークではマディソン街に、ルイ・ヴィトンなどの高級ブランドが立ち並ぶ中に、H&Mなどのファストファッションがあったりします。パリなんかもそうですよ。大きいメインストリートにいろいろな種類の店が混在しているのが現状ですね。
――それはファッション全体が活性化しているのでしょうか? あるいは、お客さんの関心がイッセイ ミヤケみたいなハイファッションからチープなものに流れてしまっているんでしょうか?
宮前 そういうことではないと思います。一番のポイントは、消費者がいい意味で、物の価値をきちんと評価できるようになってきたということではないでしょうか。ユニクロのように、しっかりとしたクオリティーのものが低価格で買えるようになり、値段と物のバランスが試されるようになってきた。イッセイ ミヤケに来たお客さんに、「この服だからこそ、この値段を支払える」と納得していただけるものを提供する責任も感じます。
逆に言うと、その間の中途半端なものが本当に生き残っていけない。なくなっていくということです。そういう意味では、何をすべきかはすごくはっきりしてきたと思います。
――最近は銀座にも価格破壊をうたう安価なフレンチのビストロができているし、どうも不景気のせいで世の中が高級品から遠のいているような気もしますが。
宮前 人間が求めていることは、機能や価格だけはないと思います。たとえば一般的に女性は、すてきな服を着て明るくなり、きれいになって注目されたいという気持ちは必ずあります。だから本当に機能だけがすべてかというと、そうじゃないと思うのです。たとえば毎日小さなビタミンのカプセルだけ飲んでいたら健康になれるとしても、それを毎日飲んでいれば満足できるかというと、たまにはきちんとしたレストランで食事をしたくなります。そうした時間の使い方のバランスをみんながうまくとりはじめているなと思うのです。
そういう中でイッセイ ミヤケも、ただ服を作るだけではなく、お店の空間や接客、サービスも含め、お客さんにどういう時間を提供できるかを大事に考えなくてはいけないと思っています。
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