鷲尾賢也
2012年08月17日
このところ続けて、福山哲郎『原発危機 官邸からの証言』(ちくま新書)、木村英昭『検証 福島原発事故 官邸の100時間』(岩波書店)が刊行された。前者は、事故当時の官房副長官。現場での自分のメモ・ノートをもとにした証言である。後者は、菅直人首相以下、官邸の多くの関係者(政治家や官僚)や専門家、東電幹部を克明に取材し、3月11日からほぼ5日間の官邸を描いたドキュメントである。
それぞれ未曽有の大事故に対処しなければならなかった当事者たちの危機感がよく伝わってくる。読みながら、はらはらしてテレビにくぎ付けになった日々が甦ってきた。NHKを中心にしたテレビの解説では、メルトダウンはないとずっといっていた。
しかし刊行された証言を読むかぎり、おそるべき事態(首都圏全体の避難の可能性)の一歩手前であったことがよく分かる。一方で、国民にとってはやることなすことすべてが不手際のように思えた。
枝野幸男官房長官の「ただちに人体に影響を及ぼす数値ではない」という発言も評判が悪かった。何かを隠しているのではないか、と疑心暗鬼になってしまったことも事実であった(その点でいえば、メディアの報道も心許なかった)。
ただ、今回、この2冊を読むと、官邸に何の情報も上がっていなかったことにあらためて背筋の寒くなる思いがした。ほんとうに情報過疎の状態に官邸が置かれていたことに驚く。
首相自身が、直接、情報を現場に求めることからスタートしている実態が明らかになっている。つまり官僚組織がまったく力を発揮していない。とりわけ、保安院はひどすぎた。事故の把握もできない。まして、事故をどうするかなどについてはお手上げの状態であった。何を聞かれても、ほとんど答えられない。また、アドバイスする立場の原子力安全委員会の班目春樹委員長も、まことにたよりなかった(というより、こういう事故を想定していないので、どうしていいかわからず沈黙してしまっている)。
さらにあきれるのが東京電力である。福山も、木村も、その点についてはもっともきびしい。当事者意識がまったく感じられない。巨大事故をおこしているのもかかわらず、情報を隠そうとする。
現在、東電に残されていたテレビ会議映像の公開が論議になっているが、
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