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華流ドラマをヒットに導いたツァイ・ユエシュン監督が見たアジア市場

西森路代 フリーライター

 神尾葉子によるコミック「花より男子」を原作にした台湾ドラマ「流星花園~花より男子~」は2001年に放送されると、その人気は台湾を飛び出し、中国大陸、シンガポール、タイ、フィリピン、インドネシア、韓国、日本にまで波及した。 

 今でこそアジアのドラマが多くの地域で放送されることは珍しくないが、当時は中国語のドラマが中国語圏以外で人気を集めることは異例のことだった。また、ドラマの中のF4(Flower4=花の4人組)はそのままユニットとして活動し、アジアのスーパーアイドルとなり、日本でも武道館でのコンサートを成功させている。

拡大ツァイ・ユエシュン氏

 このヒット作品「流星花園~花より男子~」を演出した張本人であるツァイ・ユエシュン氏が来日した。ツァイ氏が監督したアクション映画『ハーバー・クライシス<湾岸危機> Black & White  Episode 1』が日本でも9月8日から公開されることになったからだ。

 WEBRONZAでは、ツァイ監督に台湾のエンターテイメントのこれからについて話を聞いた。

 まずは、2000年代初頭の華流ブームについて。ドラマ「流星花園~花より男子~」とF4がここまで人気が出ることをツァイ氏は想像していたのだろうか?

「当時の台湾ではクリエイティブな人たちの士気が上がっていて、日本の漫画を原作にドラマを作れば、国内で多くの人たちに共感されるだろうと信じていました。でも、想像よりもはるかに評価が高かったことに驚きました」

 ツァイ氏の言うクリエイティブな人たちというのは、ドラマの女性プロデューサーであるアンジー・チャイのことだろう。彼女の製作会社はその後も、「恋のめまい愛の傷」(一条ゆかり)、「山田太郎ものがたり」(森永あい)、「部屋においでよ」(原秀則)、「MARS」(惣領冬実)など、日本のコミック原作のドラマを手掛け、台湾に「アイドルドラマ=偶像劇」というジャンルを切り開いた。

 この歴史を振り返ると、実はアジアのドラマ市場を韓流ブームよりも先に開拓したのは、「流星花園~花より男子~」ではないのか。そう尋ねると監督は「まったくそうだと思います」と答えた。

「K-POPや韓国ドラマは国の支援を受けながら10年以上の時間をかけて盛り立ててきたので、参入のタイミングが非常によかったんだと思います。我々はF4でアジアの市場を開きはしましたが、門は開いたのに、テレビ業界の準備不足でその後に良い作品をアジアに提供し続けることができなかった。ちょうどそんなときに、万全の態勢で韓国が参入してきたという状態があったと思いますね。でも、僕らにとって韓流ブームがリードした期間は調整期間だと思っています。と同時に、中国市場が大きくなってきたので、このタイミングで華流を盛り上げていくことができると思っています」

 そんな“タイミング”ぴったりに制作されたのが9月8日から日本でも公開となる『ハーバー・クライシス<湾岸危機> Black&White Episode 1』だ。監督はかねてアクション映画が大好きだったというが、まるでトム・クルーズやブルース・ウィリスが出てきそうなストーリーで、10億円という大きなバジェットのアクション映画を選んだことには理由があるという。

「10数年来、私たちは娯楽性や商業性の高い作品の価値を意識してきました。そうすることによって市場が開拓できると考えてきたんです。それに、興行成績的にもアクションは有望ですし、この映画のドラマ版『ブラック&ホワイト(原題:痞(やまいだれに「否」)子英雄)』を制作したときから間違いなく映画を撮るならアクションだと思っていました」

 結果、中国での興行権を獲得。こうさらっと書いたが、中国では、外国映画の公開本数が制限されており、そして、その約8割はハリウッド映画が占め、邦画は年間で1~2本しか上映されないのが現状である。

 そんな状況のなか、ドラマ版の放映もされていないにもかかわらず、『ハーバー・クライシス<湾岸危機> Black & White Episode 1』は国営で一番大きな会社チャイナフィルムが配給を手掛け、今年6月19日に中国で公開されると初登場3位、7月の時点で約11億円(4.2億台湾ドル)の大ヒットとなった。

 こうした取り組みは、これからの台湾映画の大きな一歩となる。かつてならば、アジアで認められた監督は、『ミッション:インポッシブル2』のジョン・ウーや『ダブルチーム』のツイ・ハーク、『ブロークバック・マウンテン』のアン・リー、『消えた天使』のアンドリュー・ラウ、『マイ・ブルーベリー・ナイツ』のウォン・カーウァイなど、ハリウッドや英語圏の映画に進出する監督も多かった。しかし、ツァイ監督はそこには異論を唱える。

「いまの僕らの世代(1968年生まれ)の考えで言うと、特にハリウッドを目指すということはなくて、むしろアジアに留まるべきだと思っています。台湾、日本、韓国……といった地域で連結して、中国市場を見据えれば、もっと発展するのではないかと。それに、いまやハリウッドでさえ中国市場に参入したいと思うほど中国市場というのは大きい。だから今、ハリウッドに行くことを考えるよりは、アジアに留まって自分たちのやるべきことをやることが大切だと思います」

 あくまでも冷静に市場を見据えた意見には納得だが同時に驚いた。今回の映画では、日本から台湾を中心に活躍し、市橋達也被告逃亡記で初監督&主演するDEAN FUJIOKA、中国からは『クレイジー・ストーン ~翡翠狂騒曲~』のホァン・ボー、香港からはモデルで日本でも数多くのファッション誌で活躍するAngelababy(アンジェラベイビー)、そして台湾からは、中国大陸でも人気上昇中のマーク・チャオを起用しているが、そんな中、韓国の俳優を起用しなかった理由は何だろうか。

「韓国の映画市場でも国内映画の占有率は高いし(2012年上半期でほぼ50%程度)、中国語の映画が今参入するタイミングでもないだろうと思って、実は最初からオファーはしていないんです」

 とはいえ、最近の台湾ドラマの動きとしては、韓国の俳優や女優を主演に迎え、日本の漫画を原作に作られるものも多い。また、今後は台湾ドラマ「ショコラ」(窪之内英策原作)に長澤まさみの主演が決まったり、「金田一少年の事件簿 香港九龍財宝殺人事件」(日本テレビ系)に、台湾のアイドルグループ飛輪海のメンバーとして活躍していたウーズンの出演も決まっている。これからの台湾とアジアの融合はどうなっていくのだろうか。

「台湾も日本も韓国も中国も、

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筆者

西森路代

西森路代(にしもり・みちよ) フリーライター

フリーライター。1972年生まれ。愛媛と東京でのOL生活を経て、アジア系のムックの編集やラジオ「アジアン!プラス」(文化放送)のデイレクター業などに携わる。現在は、日本をはじめ香港、台湾、韓国のエンターテイメント全般について執筆中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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