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 10月20日(土)から始まる東京国際映画祭(TIFF)は、事務局によれば総予算は約7億円で、官公庁からの助成金は約35%(つまり2億4500万円)という。カンヌなどの国際映画祭に比べると明らかに政府助成金が少ないのが問題だが、それについては次回触れることにして、ここではそれだけの金額(とりわけ税金)を使って、一体誰のためにTIFFをやっているのかについて考えたい。

 TIFFが何を目指しているのかはっきりしないというのは、従来から言われてきた。国内の映画ファン向けなのか、映画業界向けなのか、国際的な発信の場なのか。統括ディレクターである矢田部吉彦氏は、文化庁月報の今年の9月号(http://www.bunka.go.jp/publish/bunkachou_geppou/2012_09/special_07/special_07.html)で、次のように述べている。

 「コアなファンの飢餓感を満たし、ライトなファンに興奮をもたらし、映画監督に機会を提供し、映画会社に商機を与える。『観る人』、『作る人』、『ビジネスする人』の3者全ての満足度を上げることで映画文化を盛り上げて行こうというのが映画祭の目的」

 まさに全方位外交というか、何を目指しているのかわからない。とりわけ、観客がいつも最初に来ているのが気になる。同じ文章の後の方で矢田部氏は述べる。

 「話題の邦画を見にきたものの満席で入場できず、500円(古賀注:去年からの学生料金)という気軽さから、隣で上映していたフランス映画に替わりに入ってみたら、『あまりの素晴らしさに、映画というものに対する見る目が変わりました!』と感激しながら話しかけてくる学生カップルに筆者は遭遇し、君たちのような若者を一人でも多く増やすために映画祭は存在しているのだ、と強く思ったものです」

 それ自体は悪い話ではないが、若者をアート系の映画に目覚めさせることは、はっきり言えば国際映画祭の役割ではない。そんなことは日頃から映画業界が、あるいは教育機関が、あるいは自治体が取り組むべきことである。TIFFにはそんな余裕はないはずだ。

 それでは国際映画祭が目指すべきは何か、実際にカンヌやベルリンやベネチアのようにもっと税金を費やす映画祭は、一体何を目指しているのか。

 それは一言で言えば「国益」である。税金を使うから当たり前のことだ。

 映画祭の場合の国益とは何か。

 まず日本映画を外国に売ることであり、次に東京が新しい映画の発信の場となることだ。各国のジャーナリストが最新の映画を見るために駆けつけると同時に、バイヤーも買い付けのために集まる。そうなれば東京は情報発信の場であると共に、マーケットの場として重要性を増すことになる。

 日本映画を売ることに関して言えば、TIFFでは日本映画の上映本数が少なすぎる。カンヌやベルリンはコンペの20数本のうちに4本くらい自国映画を入れることが普通なのに、TIFFは毎年2本のみ。「日本映画・ある視点」でアート系の新作を紹介するだけでは足りない。

 ベルリンのようにこの1年間の自国映画の話題作を英語字幕付きで上映するセクションもないし、古い日本映画の特集上映もない。最近は日本映画のデジタル復元版がたくさん作られ、今年のカンヌやベネチアで木下恵介の復元版作品が1本ずつ上映されたように、海外の映画祭に続々と招待されているというのに。

 次に重要なのは、話題作の「ワールドプレミア」、つまり世界初上映だ。これがどれだけ上映されるかで、映画祭の「格」が決まる。これが多ければ各国からジャーナリストもバイヤーも駆けつける。「最初に見せる」ことはそれほど重要なのだ。ところが、今年のTIFFのコンペを見ても、15本のうちワールドプレミアは5本のみ(うち2本は邦画)で、いつもながら話題の監督の作品はない。

 もちろんカンヌなどのように長い伝統を持つ映画祭は、待っていれば向こうから一流監督が出してくれと殺到するに違いない。TIFFのような後発組がプレミア作品を「取る」ことが難しいのはわかるが、世界で2番目に大きな映画マーケットを持つ日本なのだから(今年中国に追い越されるらしいが)、映画界が総力を挙げればもう少し何とかできるのではないか。

 2000年に「東京フィルメックス」という規模の小さい国際映画祭ができたが、2009年に第10回を記念して「国際映画祭はどうあるべきか」が話し合われた。

 前述の矢田部氏を含め、アジア部門の石坂健二氏、山形国際ドキュメンタリー映画祭の藤岡朝子氏、それから東京フィルメックスの林加奈子氏と市山尚三氏が参加した。司会を務めた市山氏が「ワールドプレミアをどう考えるか」という問いを投げかけた時、全員が「あまり考えない」と答えたのには、筆者は落胆した。とりわけ多くの税金を使うTIFFはそれではダメなはずだ。

 案の定、毎年多額の助成金を出している財団法人JKA(旧自転車振興会)の役員の方が「そんな ・・・ログインして読む
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筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。訳書に『魔術師メリエス――映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)、共著に『日本映画史叢書15 日本映画の誕生』(岩本憲児編、森話社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

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