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日本の「しゃらくせー市場」に真面目に向き合った『新しい靴を買わなくちゃ』

西森路代 フリーライター

 結論から書く。『新しい靴を買わなくちゃ』という映画は、現代の日本に生きる、まともなつっこみ力のある人ならば恥ずかしくて見ていられない「しゃらくせー」映画である。

 しかし、実は日本のアラフォーを中心とした女性の「しゃらくせー」ものに対するファンタジーは意外とバカにはできないもので、その市場はかなり大きい。筆者は仕事で台湾、韓国のラブストーリーを見てきたが、人気作品の傾向は「しゃらくせー」ものばかりである。

 では、受ける「しゃらくせー」とは何か。それは、陳腐でありふれたおとぎ話を映像化したものであったり、女性がお姫様幻想を投影して、しばしうっとりできるものである。

 そんなコンテンツに『冬のソナタ』に始まった韓流ドラマがある。韓流ドラマというのは、ターゲットをはっきり女性に絞っていて、男性が見ると気恥ずかしいものが多い。女性であっても気恥ずかしいことは気恥ずかしいのだが、国内の俳優ではなく似たような風貌をした、でも異国の俳優が演じているので、細かいことは気にせずにハマることができたという人も多かった。

 しかし、国内でこういった「しゃらくせー」コンテンツを作ろうと思うと、どうしても繊細な「つっこみ目線」が勝ってしまって、思うように作れない。そのため、日本では「しゃらくせー」コンテンツを作るときは、海外にアウトソーシングをしたり、主演俳優だけを借りてきたり、監督だけ借りてきたり、あるときは、原作や企画を出したり、出資をしたりして、韓国に投げてきたことも多かった。

 そこには、「しゃらくせー市場」のターゲットである女性たちが、自国の俳優が演じた「しゃらくせーコンテンツ」を見るのが恥ずかしかったということもあっただろうし、自国の俳優を使ってのうまいアプローチを見つけられなかったということもあっただろう。

 そのため、これまで「しゃらくせー作品」を自国で作ることが難しかった。それでは、この意外と大きな「しゃらくせー市場」のうまみを海外にとられるだけになってしまうのではないか。

 しかし、『新しい靴を買わなくちゃ』は、今までこっぱずかしいからといって躊躇していた「しゃらくせー」に真正面から取り組んだ作品だ。 

 主演の中山美穂は前作『サヨナライツカ』では奔放でどんな男性が見ても一目でその魅力に堕ちてしまうファム・ファタールを演じていたが、今回はイラっとするくらいおっちょこちょいで、ちょっと古いタイプのぶりっ子キャラを演じている。

 前作が女としての自信満々だったのに対して、今回は女としての自信のなさが目立ち、前作のようにハッとするほど美しいカットが意図的に撮られることもなく、等身大のアラフォー女性を全面的に押し出している。

 そして、向井理演じるパリに旅行できたカメラマンと知り合い、ラブストーリーにありがちなハプニングが重なって一緒に過ごすうちに次第に心が近づいていくという物語が展開されるのだが、向井理演じるカメラマンが映画の中に流れる「姫願望」に根気強くつきあってくれているのが涙ぐましい。

 そして、そんなありえないカマトトっぽい純愛ストーリーはこれまでの単発の「大人の恋の物語」とは一線を画している。 

 というのも、長らく単発の「大人の恋の物語」というのは、会った瞬間に「ビビビ」ときてそのまま勢いで肉体関係に。ところが一気に燃え上がった恋は終わりに向けて進むしかなく、物語は「最初にピーク」を迎え、後はせちがらい現実ばかりが描かれるというものが非常に多かった。

 中山美穂の最近出演した『サヨナライツカ』も今年3月の単発ドラマ「終着駅~トワイライトエクスプレスの恋」もどちらかというとそのパターンだったし、映画版の『セカンドバージン』も「最初がピーク」の物語だった。

 しかし、実際に女性が好むラブ・ロマンスは、出会いから結ばれるまでを描いた「ピークで終わる」ものだ。ほとんどの少女漫画と韓流ドラマ、おとぎ話はこの形式をとっていて、その顧客は少女からお婆ちゃん世代まで幅広いというのに、これまでの大人の恋の物語だけは逆の方式をとってきたわけだ。

 これは、女性の意向

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筆者

西森路代

西森路代(にしもり・みちよ) フリーライター

フリーライター。1972年生まれ。愛媛と東京でのOL生活を経て、アジア系のムックの編集やラジオ「アジアン!プラス」(文化放送)のデイレクター業などに携わる。現在は、日本をはじめ香港、台湾、韓国のエンターテイメント全般について執筆中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)がある。

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