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『アウトレイジ ビヨンド』、恐るべし!(1)――隙のない緊密な作劇

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 見終わったあと、いくつもの場面やショットが鮮やかに記憶に刻みこまれていて、すぐにもう一度見たくなる映画、これが“面白い映画”のいちばん手っ取り早い定義だが、北野武監督の『アウトレイジ ビヨンド』も、まさにこの定義がぴたりと当てはまる、めちゃくちゃ面白い傑作だ。

拡大ベネチア映画祭の公式上映で拍手に応える北野武監督(左から3人目)=2012年9月3日

 物語/脚本のレベルでいえば、『アウトレイジ ビヨンド(以下『ビヨンド』)』では前作にも増して、誰が誰を騙し、裏切り、殺すのか、誰が誰と裏で手を握るのか、あるいは誰がどんなふうに殺されるのか、というヤクザ映画、ひいては犯罪映画の基本パターンの一つが、ちょっと類のないほど緻密に練り上げられていて、そのつど見る者の意表をつき驚愕させる(脚本、編集も北野武)。

<物語(以下、部分的なネタバレあり) 前作『アウトレイジ』(2010)において、汚い手口で下剋上劇を制した加藤(三浦友和)が会長の座にのしあがった暴力団・山王会。その5年後、山王会は関東一円を取り仕切り、政界に手を出すまでの巨大組織に成長した。

 だが山王会は、カネの稼げる現代ヤクザの若頭・石原(加瀬亮)や舟木(田中哲司)ら、若手幹部が牛耳っており、古参の幹部連中――富田(中尾彬)、白山(名高達男)、五味(光石研)――は脇へ追いやられ、くすぶっていた。

 そこに目をつけたのが、組織犯罪対策部(通称“マル暴”)の刑事・片岡(小日向文世)だが、策略家で立身主義者の彼は、警察官でありながら密かに山王会と通じ、古参幹部らをそそのかし、加藤を失脚させようと目論む。

 片岡は、関西を代表する暴力団・花菱会にも接近し、勢力を拡大しつづける新体制の山王会への対抗心を煽るが、彼には東西の巨大組織に“潰しあいの戦争”をさせようという思惑もあった。

 他方、片岡はまた、前作で対立する村瀬組の木村(中野英雄)に獄中で刺殺されたはずの大友(ビートたけし)を仮出所させる(片岡はいずれ大友を切り札として利用すべく、「大友、獄死」の噂を流していたのだ)。片岡は、山王会に恨みをもつ点で共通する、かつて大友を刺した木村と、元は山王会の配下にあった大友組・組長の大友を組ませ、山王会潰しを企てるわけだ(大友と木村は、昭和ヤクザ気質の持ち主という点では共通しているが、前者が<組織>とは距離を置こうとするのに対して、後者は生一本だが<組織>に執着するというように、細心の人物造形がなされる。したがって本作の宣伝コピー“全員悪党”は正確さを欠く)。

 また前作において、大友組の金庫番だった悪賢い石原は、大友を裏切り、当時、山王会の若頭だった加藤に目をかけられて、『ビヨンド』では同会の若頭にまでのぼり詰めている。

 そして悪徳刑事・片岡に引っかき回された挙句、

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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