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どっちらけアメリカ大統領選と、ブルースと

近藤康太郎 朝日新聞西部本社編集委員兼天草支局長

 アメリカ大統領選が終わった。でも、あとに残ったのは、「なんか、盛り上がらんね」という感想ばかり。報道も、オバマ初当選の4年前に比べると著しく低調だった。

 高揚感に欠けたのはエンターテインメント業界も同じ。熱心な民主党びいきのマドンナが、投票前のライブで「オバマに投票を」と呼びかけたら、ブーイングが起きる場面もあった。

 4年前は、オバマの集会にブルース・スプリングスティーンやスティービー・ワンダーら有名ミュージシャンがこぞって登場し、支持を訴えた。オバマ支持のミュージシャンが歌ったコンピレーションアルバム「YES WE CAN:VOICES of a GRASSROOTS MOVEMENT」なんてのもあったのに。

 今回の最大の争点は経済問題、なかでも失業だった。人は、カネがなくても生きていけるが、仕事がなくては生きていけない。失業手当や生活保護があるから、飢え死にしない……なんて問題ではない。

 他者とかかわり、他者の承認を受け、自分で自分を赦すことができる。その唯一の手段が、労働だ。人とかかわらなければ生きていけないのが、ヒトという生物なんだ。銭カネじゃない。「尊厳」の問題なんだ。

 選挙戦でのロムニーの敗因もきっとそこ。「こいつにやらせても、仕事は増えない」と、有権者が(たぶん正しく)判断したんだろう。

 この視点は日本の新聞では欠けていたように思うけれど、経営者として大成功したというのがウリのロムニーだが、結局、彼が大もうけしたプライベート・エクイティ・ファンドって、税法上の穴をめざとく見つけて、有利な企業を買収し、ときには従業員も大量解雇して、会社を“再建”(?)し、そしてまた売り払ってもうけようという商売。雇用に貢献してない。

 だから、オバマの勝利の美酒も、4年前とは味が全然違う。アメリカの夢をオバマに託すという盛り上がりはない。若者も貧困層も、「よりまし」な候補を消去法で選んだというところではないか。大人気だった大統領の、2期目に遭遇する、冷淡と絶望。

 この図式、ある著名な大統領と似ている。

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筆者

近藤康太郎

近藤康太郎(こんどう・こうたろう) 朝日新聞西部本社編集委員兼天草支局長

1963年、東京・渋谷生まれ。「アエラ」編集部、外報部、ニューヨーク支局、文化くらし報道部などを経て現職。著書に『おいしい資本主義』(河出書房新社)、『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』(水野和夫氏との共著、徳間書店)、『「あらすじ」だけで人生の意味が全部分かる世界の古典13』(講談社+α新書)、『リアルロック――日本語ROCK小事典』(三一書房)、『朝日新聞記者が書いた「アメリカ人が知らないアメリカ」』(講談社+α文庫)、『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』(講談社+α新書)、『朝日新聞記者が書けなかったアメリカの大汚点』(講談社+α新書」、『アメリカが知らないアメリカ――世界帝国を動かす深奥部の力』(講談社)、編著に『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』(文春文庫)がある。共著に『追跡リクルート疑惑――スクープ取材に燃えた121日』(朝日新聞社)、「日本ロック&フォークアルバム大全1968―1979」(音楽之友社)など。趣味、銭湯。短気。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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