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『カリフォルニア・ドールズ』を見ずに死ねるか!(1) ――名匠アルドリッチ最後の、そして最高の贈り物

藤崎康

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 ドサ回りの女子プロレスラー二人組と彼女らのマネージャーを主人公にした、名匠ロバート・アルドリッチ(1918―1983)の遺作にして最高傑作『カリフォルニア・ドールズ』(1981)を、30年ぶりにスクリーンで見た。というか、見に行っている(すでに3回見たが、あと1回か2回は行く予定。なお本作は、音楽著作権上の理由からいまだDVD化されていないが、今後のリリースも未定)。

 今回の『カリフォルニア・ドールズ』再公開は単館上映で、劇場は2012年12月2日に本作終映とともに閉館する東京のシアターN渋谷。つまり、同館のクロージング作品がアルドリッチ最後の作品であるという、なんとも劇的な店じまいだ(同時上映されているアルドリッチのポリティカル・アクション、『合衆国最後の日』<1977>も、スプリット・スクリーン/分割画面などが超絶技巧で駆使され、かの毒ガス・サリンも登場する必見の傑作)。

 ともあれ『カリフォルニア・ドールズ』は、見るたびにハラハラドキドキし、心揺さぶられ、切なくなって目頭が熱くなり、終映後は気分が高揚して何ともいえぬ幸福感につつまれる、もう“神品(しんぴん)”と呼ぶしかない映画だ。

――などと書いても、もちろん、この映画の飛び抜けた素晴らしさについて何も言ったことにはならないが、実はこのところ、本作を見るごとに気持がアップするばかりで、その高揚感との距離がとれないまま、私は「批評の言葉」を見つけられないでいる。

 が、『カリフォルニア・ドールズ』の上映期間が終わってしまうまでに、とりあえず何かを書いておかねば、本作に対してもアルドリッチに対しても、また本作をニュープリントで(!)われわれのもとに届けてくれたシアターN渋谷に対しても、申し訳が立たないので、以下、覚書風に本作について記しておく(タイミングよく出版された読み応え満点の『ロバート・オルドリッチ読本(1)』(編・著=遠山純生、boid刊)も、大いに参考にさせていただく。なお「オルドリッチ」は正式な読み方らしいが、本欄では従来通り、「アルドリッチ」と表記する)。

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 女子プロレスラー二人組“カリフォルニア・ドールズ”、黒髪のアイリス(ヴィッキ・フレデリック)と金髪のモリー(ローレン・ランドン)は、ヘソ曲がりのマネージャー兼トレーナーでアイリスの元恋人であるハリー(ピーター・フォーク)とともに、ドサ回り/地方巡業の旅をつづけている(以下ネタバレあり)。

 アルドリッチは持ち前の語りの至芸をフルに発揮して、このトリオ/3人組のしがないモーテル暮らし、やり手のプロモーター(興行師)らとの虚々実々の駆け引き、あるいは“ドールズ”とハリーの諍(いさか)いなどの小波乱を、数々のひねりの利いたギャグをまじえながらロードムービー風に描きつつ、後述するように、“ドールズ”とライバルの黒人タッグチーム“トレド・タイガーズ(以下“虎”)や日本人タッグ(ミミ萩原とジャンボ堀!)との試合光景を、ダイナミックに画面に炸裂させる。

 そして、われわれ観客はアルドリッチの緩急自在の語り口にまんまと乗せられて、3人が旅のさなかに味わう喜怒哀楽にぴたりと寄りそいながら、やがて、映画史上屈指といっても過言ではなかろう、カジノホテル「MGMグランド」のアリーナに観衆の大歓声が響き渡り、子どもたちが合唱する「カリフォルニア、ヒア、アイ、カム」が流れる奇跡のような大団円のうねりに巻き込まれていく――。

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 『カリフォルニア・ドールズ』が超傑作である大きな理由の一つは、マネージャー兼トレーナーのハリー/ピーター・フォークの

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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