2012年12月18日
(1)上丸洋一『原発とメディア――新聞ジャーナリズム2度目の敗北』(朝日新聞出版)
斎藤貴男『「東京電力」研究 排除の系譜』(講談社)、木村英昭『検証 福島原発事故 官邸の一○○時間』(岩波書店)をはじめとして、東京新聞原発事故取材班『レベル7――福島原発事故、隠された真実』(幻冬舎)、朝日新聞特別報道部『プロメテウスの罠――明かされなかった福島原発事故の真実』(学研パブリッシング)など、数多くのリポートに衝撃をうけた。これらによって、戦後史のつけが原発に集約されていた事実が明らかになった(安全保障から地方財政まで)。原発を考えることは、私たちのいままでのシステムを見直すことになるのだ。
上丸の一冊は、メディア(とりわけ新聞)がどのようなかたちで原発を推進してきたか、先人たちへの糾弾を含んだ詳細な調査と分析であった。自分たちのよってたつ足場までを検討した報告に迫力があった。またこれを紙面に連載させた新聞の度量と見識にも感心した。
同じように、メディアには志が大事だとあらためて確認した本がある。
(2)アンドレ・シフリン、高村幸治訳『出版と政治の戦後史――アンドレ・シフリン自伝』(トランスビュー)
数字だけが支配するアメリカ出版界の衰退をリアルに描いた『理想なき出版』(柏書房)も以前、話題になったが、本書はそのシフリンの自伝である。ナチの迫害を逃れ、一家で亡命。貧困、赤狩りのなかで青年期を送る。「パンセオン」から編集者生活をスタートさせる。M・フーコー、R・H・トーニー、E・ホブズボーム、R・D・レイン、N・チョムスキー、J・ダワーなどが彼のかかわってきた著者であるが、しかし、本書は大編集者の成功物語ではない。次々と大手メディアに買収、吸収合併される出版社の内情の悲惨さも生々しい。損益計算書が編集者ごとに作成される自由度のない現場。彼が独立系出版社「ニュープレス」を立ち上げる背景である。
これは余所事ではない。日本のメディアが直面している問題でもある。ぜひ手に取ってもらいたい一冊。
小説に食指が動かないのは、自分の好みかもしれないが、それにしても文芸関係に強い印象がない。なかでは、大著にもかかわらず非常におもしろく一気に読んだのが、次の一冊である。
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