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(1)『ミステリーズ 運命のリスボン』(ラウル・ルイス)

(2)『ル・アーヴルの靴みがき』(アキ・カウリスマキ)

(3)『アウトレイジ ビヨンド』(北野武)

(4)『少年と自転車』(ダルデンヌ兄弟)

(5)『別離』(アスガー・ファルハディ)

 今年はまさにフィルムからデジタルへの移行期だった。この5本でも、たぶん『ミステリーズ 運命のリスボン』と『別離』以外はフィルムで撮影されているが、それらがデジタルで上映されることもあった。2013年3月でシネコンのデジタル化が完了し、富士フィルムがフィルムの生産を中止するというから、13年以降は製作も上映もほぼすべてデジタルに移行するだろう。

 さてこうして5本並べてゆくと、まるでカンヌあたりの国際映画祭のラインナップのようだ。洋画不振と言われるが、これほどのレベルの映画を見られる日本はまだまだ大丈夫だと思う。

 これ以外にも、『ライク・サムワン・イン・ラヴ』(アッバス・キアロスタミ)、『ヒューゴの不思議な発明』(マーチン・スコセッシ)、『カルロス』(オリヴィエ・アサイヤス)、『最初の人間』(ジャンニ・アメリオ)など、カンヌやベルリンの常連組の秀作がいくらでもあった。

 そのなかで(1)をまず選んだのは、2011年に亡くなったこの大監督が日本にきちんと紹介されたのは初めてに近いからだ。これまで公開された『見出された時――「失われた時を求めて」より』(1999)は、プルーストの原作やエマニュエル・ベアールの主演がとりあげられ、『クリムト』(2006)は、ジョン・マルコヴィッチがクリムトを演じたことが話題になったが、いずれも彼の代表作ではない。

 今回は4時間半の大作だが、100本以上の作品を残したこの監督のまさに集大成と言えよう。独白をする主人公が次々と移り変わり、それでも多くの人物たちがどこかでつながっており、いかにもラウル・ルイスらしい。現実と夢、過去と現在が折り重なり、まるでラテンアメリカ文学のような壮大な物語が展開する。チリ出身でフランスで活躍したこの監督の作品をもっともっと見たい。

(2)は(1)の饒舌さとは対極の、究極のミニマリズム映画。時代に取り残されたような港町に立ち尽くす人々の静かなドラマ。たいした物語はなく、役者たちは演技らしい演技をしないのに、いつの間にか情感が溢れてくる神業のような作品だ。

(3)は、北野武の新境地を示す作品だ。『アウトレイジ』に比べて暴力シーンを抑え、その分全体をコミカルにかつ静かに描く。とりわけ音の使い方が効果的で、ラストの2つの殺しの力が頂点に達している。さらなる続編も楽しみだ。

(4)はこれまでのダルデンヌ兄弟の映画の中で、最も心が和む映画かもしれない。しかしながら過激なまでの単純さは健在で、数回だけかかるクラシック音楽など、もはやロベール・ブレッソンの域に達したように思える。

(5)は二転三転する物語に、息を飲んだ。登場人部たちの心の襞が少しずつ見えてゆくシナリオ構成のうまさに加えて、人々の間を縫うように動き回る華麗なカメラワークも忘れがたい。

 このほか、これまで触れていない2012年の秀作について、列挙したい。大作洋画では、『戦火の馬』『トータル・リコール』『アメイジング・スパイダーマン』『ダークナイト・ライジング』『プロメテウス』『ドラゴン・タトゥーの女』『アルゴ』。

 アート系洋画では『メランコリア』『ルートアイリッシュ』『ニーチェの馬』『果てなき路』『ポエトリー アグネスの詩』『汽車はふたたび故郷へ』『わたしたちの宣戦布告』『ドライヴ』『きっとここが帰る場所』『トガニ』『太陽とオレンジ』『菖蒲』『キリマンジャロの雪』『ソハの地下水道』『マリー・アントワネットに別れをつげて』『愛について、ある土曜日の面会室』。

 邦画について考えると、頭が痛くなる。 ・・・ログインして読む
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筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。訳書に『魔術師メリエス――映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)、共著に『日本映画史叢書15 日本映画の誕生』(岩本憲児編、森話社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

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