メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS
(1)エレファントカシマシ(1月6日、渋谷公会堂)

(2)ウェディング・プレゼント(4月16日、新代田FEVER)

(3)インセクト・タブー(11月18日、Live & Bar渋谷)

(4)猛毒(4月5日、恵比寿リキッドルーム)

(5)ファンシーナムナム(8月21日、下北沢リバティ)

 「涙よりも笑いごとを描くにしからざむ、/笑うはこれ人間の本性なればなりけり。/楽しく生き給え。」

 17世紀のフランスの作家ラブレーは、『ガルガンチュアとパンダグリュエル物語』の冒頭にこう書いた。そして、2012年の日本ほど、笑いが必要な時もないのではないのかと思うのだ。

 「おめー寝ぼけてんのか? 政治を見ても経済を見ても、どこに笑える話があるんだこのタコ!」と怒鳴られそうだが、まま、しばらく。ラブレーだって、その生きた時代におもしろおかしいことがあったわけではない。戦争は各所であり飢饉もあった。自分の本は禁書になり、亡命もした。そんな中で、くっだらないギャグをかまして、笑っていた。

 なぜか。笑いとは、生きること、そのものだから。幸せだから笑うのではない。笑うから幸せなのだ。テレビに出てくる政治家の顔――ほんのちょっと前に涙目で辞任会見してやがったくせにやたら張り切っちゃってるとっちゃん坊や顔、目の焦点が合ってないドジョウ顔、テレビレポーターを叱りつける傲慢顔――を見るにつけ、萎える。笑えない。笑えないが、しかし、無理にでも面白いことを見つけてしまうんだ。笑いは、権力者が最も嫌うことでもある。音楽を聴いても、笑え。笑うために、聴け! そんなベスト5。

(1)のエレカシは、正月のおめでた気分で見た。豪華にホーンセクションとストリングスも入れて、華やかに歌った。いまでこそ、でかいホールを満員にする人気だが、デビュー当初は厳しかったのだ。レコード会社からリストラにもあった。テレビドラマの主題歌で一発逆転、人気者となったが、しかし、歌う世界が変わったのではまったくない。曲作りは、そりゃもちろん進化しているが、歌う内容は、荒々しいデビュー当初(酔っぱらいの吠え声なんて言われたこともあった)と何ら変わっていない。

 それは、真剣に生きろ、ということだ。浮気な世間なんて、相手にするなということだ。エレカシの場合、真剣さが、ど外れている。だから、つい笑っちゃうのだ。この日もやっていた曲「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」など、彼らの曲は死の影が濃い。生活とは敗北と死に至る道のこと。人は、必ず死ぬ。いや人だけじゃない。万物が死ぬ。宇宙だって死ぬ。だからこそ、なんだ。真剣に生きろ。人は、人それぞれの戦場を持つ。ゆえに、自分の戦いを戦え。その、あまりの真剣さ真摯さ熱さ誠実さに、つい、笑ってしまうのだ。

 今年、ボーカルの宮本浩次が突発性難聴となった。無期限活動休止を発表した。絶対に復活すると思うね。そんで、また笑かせてくれるに違いないんだ。

(2)は85年に結成された英国のギターバンド。ギターはもろノイズみたいな局面もある。ヘッドフォンで聴いていると、聴覚の錯覚を起こす。本当は存在しない音が鳴り出す。幻聴。でも、メロディーはすごく叙情的。その落差に笑う。この日は、最高傑作の名盤アルバム「シーモンスターズ」を、曲順もそのままに再現したライブだった。その発想が、狂っているのだった。幻聴を聴きにいったみたいなもんだった。

(3)虫博士と名乗る謎のボーカルのポエムを、手だれのミュージシャンが、すごくいいメロディーで演奏する謎バンド。虫にご執心のポエムが多い。「廃藩置県 廃藩置県/もうトノサマバッタじゃない」と歌い、じゃあなんなのかというと「今は知事バッタ」。あほうな左翼ソングも多く、

・・・ログインして読む
(残り:約876文字/本文:約2426文字)


筆者

近藤康太郎

近藤康太郎(こんどう・こうたろう) 朝日新聞西部本社編集委員兼天草支局長

1963年、東京・渋谷生まれ。「アエラ」編集部、外報部、ニューヨーク支局、文化くらし報道部などを経て現職。著書に『おいしい資本主義』(河出書房新社)、『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』(水野和夫氏との共著、徳間書店)、『「あらすじ」だけで人生の意味が全部分かる世界の古典13』(講談社+α新書)、『リアルロック――日本語ROCK小事典』(三一書房)、『朝日新聞記者が書いた「アメリカ人が知らないアメリカ」』(講談社+α文庫)、『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』(講談社+α新書)、『朝日新聞記者が書けなかったアメリカの大汚点』(講談社+α新書」、『アメリカが知らないアメリカ――世界帝国を動かす深奥部の力』(講談社)、編著に『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』(文春文庫)がある。共著に『追跡リクルート疑惑――スクープ取材に燃えた121日』(朝日新聞社)、「日本ロック&フォークアルバム大全1968―1979」(音楽之友社)など。趣味、銭湯。短気。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

近藤康太郎の記事

もっと見る