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ウェス・アンダーソンの新作、『ムーンライズ・キングダム』は素晴らしい!(上)――少年少女の駆け落ちをポップに描く

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 ウェス・アンダーソンといえば、こんにちのアメリカ映画界で最も才能豊かな監督の一人だ。まだ40代前半の若さながら(1969年生まれ)、すでに『天才マックスの世界』(1998)、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)、『ライフ・アクアティック』(2005)、『ダージリン急行』(2007)、『ファンタスティックMr.FOX』(2009、ストップモーション・アニメ)などの秀作をコンスタントに発表している。

 そんな才気煥発の彼の新作『ムーンライズ・キングダム』を見たが、期待どおりの素晴らしさで、うならされた。

 描かれるのは、12歳の少年少女の“愛の逃避行”。映画化するにはかなり難易度の高い題材である。だがアンダーソンはそれを、ポップでクールな傑作フィルムに仕上げてしまった。アンダーソンならではの凝りに凝った画(え)づくりと編集、そしてハイセンスな演出の数々、さらに彼がロマン・コッポラと共同で執筆した非凡な脚本によって、である(後述)。

――時は1965年、舞台はアメリカのニューイングランド沖の小島。1年前、里親に育てられている孤児のサム(ジャレット・ギルマン)と、海沿いの大きな屋敷に暮らす風変わりな少女、スージー(カーラ・ヘイワード)は、教会でのお芝居上演のさいに出会い、わずかな言葉を交わしただけで惹かれ合い、文通を始め、密かに駆け落ちの計画を練っていた。

 そしてある日、ふたりは草原で落ち合い、“愛の逃避行”を開始する。行き先はサムにとって憧れの地である、“3・25海里 潮流口”。冒険のはてに、ふたりはその美しい入江にたどり着き、そこを“ムーンライズ・キングダム(月の昇る王国)”と名付け、海に飛び込み、絵を描き、本を読み、将来を語り合い、ダンスを踊り、初めてのキスをする。

 そんなふたりを、親や島警察の警官や福祉局、はてはサムがその一員であったボーイスカウトの隊長や隊員の子どもたちが捜索を開始、珍騒動が巻き起こる――。

 ここで、本作の主要人物のキャラクター造形や、役者たちの演技設計をみておこう。

 主人公の少年少女は、周囲になじめない「問題児」という設定だ。――絵を描くのが大好きなサムは、ボーイスカウトでも変人扱いされていたが、駆け落ち事件後、彼は里親からも厄介者として見放される。

 スージーはといえば、偏屈な父(ビル・マーレイ)と口うるさい母(フランシス・マクドーマンド)、そして3人の幼い弟たちと暮らしているが、彼女もまた、家族には心を閉ざし、もっぱら本を読み、双眼鏡で家の外を観察するという自分だけの世界に浸っていた。

 このようにサムとスージーは、周囲に溶け込めずに窮屈な思いを抱えている、ちょっと自閉症ぎみの「変人」として性格づけられる。そして、こうした性格設定はまた、ふたりが“逃避行”を決意する物語的動機づけにもなっている。説得力のあるプロット構成だ。

 が、さらに重要なのは、サムとスージーの「変人」ぶりが、 ・・・ログインして読む
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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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