2013年03月30日
通常、日本で開かれる海外の美術展は、19世紀の印象派以降のものが多い。日本の美術館にもあるので親しみやすいし、それ以上に点数が多く作品の状態が安定しているので海外にも貸し出しやすいからだ。
ところが「オールド・マスター」と呼ばれるルネサンスから18世紀までの作品は、数も少なく各美術館の目玉でもあり、なかなか日本に来ない。ところが今は、16世紀初頭から17世紀半ばまでの3巨匠の作品が東京に集結している。何が起こったのだろうか。
「ラファエロ展」は上野の国立西洋美術館(西美)で、5月2日まで開催されている。日本でラファエロ展が開催されるのは初めて。
ラファエロはレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロと並んでルネサンスの三大巨匠と言われるが、この時期の絵画はまず数が少ない。当然日本にはほとんどないし、板に描かれたパネル絵がほとんどなので、海外への輸送には適さない。
それが今回は、ラファエロの真筆だけでも20点は揃っている。ラファエロの工房作や同時代の画家、後継者たちも含めて61点という堂々の展示である。
フィレンツェのウフィッツィ美術館蔵の《自画像》を始めとして、パラティーナ美術館蔵の《大公の聖母》といった代表作が並ぶ。借用先はイタリアを中心にパリのルーヴル美術館やロスのポール・ゲッティ美術館などに及ぶ。
印象的な赤や青を使った衣服から背景の風景まで、全体にいいようのない優雅なバランスがあり、うっとりしてしまう。
「エル・グレコ展」は既に大阪の国立国際美術館で開催されたものだが、上野の東京都美術館(都美)で4月7日まで展示中だ。エル・グレコの個展は日本で初めてではないが、おそらく1986年に西美で開催して以来だ。エル・グレコは西美に1点、倉敷の大原美術館に1点あるし、「スペイン美術展」などに必ず数点入っているので珍しくないが、これだけまとまって見る機会は極めて貴重だ。
こちらはエル・グレコのみで51点。トレドのエル・グレコ美術館などスペインの作品が多いが、ロンドンのナショナル・ギャラリーやニューヨークのメトロポリタン美術館などの所蔵品まで集まっている。
時代はルネサンスから少し下った16世紀後半から亡くなる1614年まで、ギリシャ生まれでイタリアで活躍した後にスペインのトレドに居を定めた画家の軌跡を追うことができる。マニエリスムと呼ばれる時代で、エル・グレコ特有の引き伸ばされた人物像にとりわけ細長い顔が特徴だ。
「ルーベンス展」は渋谷の東急文化村「ザ・ミュージアム」で4月21日まで開催後、北九州や新潟に巡回する。時代はもう少し下って、ルーベンスの活躍は17世紀初頭から亡くなる1640年までだ。全体では84点だが、ルーベンスの場合は工房作や専門画家たちとの共同制作が多く、ルーベンス一人の作品と見なされているのは二十数点。アントワープの王立美術館を中心に、こちらもフランスやイタリアの美術館からも出品されている。バロックのダイナミックな大作を十分味わえる。
これ以外にも4月23日からは都美でレオナルド・ダ・ヴィンチ展が、9月6日からは西美でミケランジェロ展が始まる。一体どうしてこんなことになったのか。内部の関係者に話を聞いてみると、思わぬ「事情」がたくさんあった。
大きな声で言える「事情」としては、今年は「イタリア年」というのがある。ラファエロやダ・ヴィンチ、ミケランジジェロはそうだし、エル・グレコやルーベンスもイタリアで活躍した時期があり、ルーベンス展も「イタリア年」の公式イベントだ。そういう年はイタリア政府が動くから、通常貸し出さないものが出ることが多い。2001年の「カラヴァッジョ展」がそうだった。
もう一つの表向きの「事情」は、作品保険に日本政府の国家補償が付く制度ができたことだ。カタログで見る限り3つの展覧会のうちこの制度を使っているのは「ラファエロ展」だけだが、億単位の保険料負担を主催者は免除されるため、開催がしやすくなる。
もっと裏の「事情」を関係者に探ってみると、開催をめぐり表で「言わない」話がいろいろ出てきた。3つの展覧会の作られ方はすべて異なる。
西美関係者に聞いたところ、「ラファエロ展」の場合は、
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