2013年04月29日
「本会は、編集者の歴史的、社会的役割等、編集・出版文化に関わる諸問題の学問的研究とともに、出版の現状、将来像に関わる実践的課題に応えるべく出版界へ寄与することを目的とする」(学則第3条)と、少々むずかしいが、要するに、出版・編集のことをきちんと位置づけようという集まりである。現役からOBまで、また大から中小出版社まで、さらに文芸とか学芸を問わず、多くの編集者、研究者が集っている。
このたびその機関誌「エディターシップ」第2号が刊行された。「多様体としてのブックデザイン」というデザイナー杉浦康平の講演筆記などのほかに、文芸出版の志にふれた「河出書房風雲録・抄」(小池三子男)、「本屋と薬屋」(石塚純一)といった学究的な論考、あるいは、近年の度重なる誤報問題を中心にした「ジャーナリズムは本当に大丈夫か」(山田健太)など、出版関係者にとって見逃すことができない論考のそれぞれに読み応えがあった。
なかでも「福武書店のころ」(大槻慎二)は、なんともすごい!回顧であった。いまの出版現場を先取りした体験は実に示唆的であった。
「福武書店」といって、もう知っている人も少ないかもしれない。現在は「ベネッセコーポレーション」と改名して、上場会社になっている。もちろんその中核は「進研ゼミ」や「進研模試」などの受験産業。1980年代、その収益を基盤に本格的に出版界に打って出たのが、大槻のいう「福武書店」なのである。「ビジュアルの岩波書店へ」という初代社長の夢があったらしい。
1999年に、文芸や人文、あるいは辞書など書籍部門から撤退したので、活動期間はほぼ20年前後なのであるが、吉本ばなな「キッチン」のミリオンセラーをはじめとして、純文学誌「海燕」、女性誌「カルディエ」、辞典、『内田百けん(=門構えに月)全集』などの全集もの、あるいは福武文庫など、いっときは総合出版社としてかなりの位置をしめていた。
同時代を編集者として並走していた私なども、その豊富な財政的基盤による活動に少なからずの恐怖を抱いていた。しかし、その内情は……
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