2013年05月08日
が、見逃せないのは、サークが狭い意味でのメロドラマだけでなく、犯罪ミステリー、戦争映画、ラブコメなどの幅広いジャンルの作品を手がけており、その多くが第一級品であることだ。この驚くべき芸域の広さは、やはりハリウッド古典期の巨匠の一人、ハワード・ホークスに匹敵する。
今回取り上げる『突然の花婿』(1952、モノクロ)も、物語自体はたあいない約80分の低予算ラブコメだが、そのスピード感あふれる語り口にとことん魅了される。もっとも、サーク自身は本作のことは何も覚えていないと述懐しているが、しかしながら、お仕着せ企画をおそらく朝飯前でこんな小傑作に仕上げてしまったサークの才能には、あらためて感嘆せざるをえない(本作は「メロドラマの巨匠 ダグラス・サーク傑作選 DVD-BOX3」に収録)。
<物語:ラスベガスでリー(パイパー・ローリー)はGIのアルバ(トニー・カーティス)と、秘密裏に結婚する。朝鮮戦争から帰還し、リーの実家を訪れたアルバは、彼女が結婚したことを支配欲の強い母親(スプリング・バイントン)に話していないことを知る。母親は、リーを彼女の務めるセメント会社の社長ストゥルプル(ドン・デフォー)と結婚させようと決めていた……>
『突然の花婿』の面白さのキモは、いかにして新婚ホヤホヤの夫婦を二人きりにしないか、という滑稽な状況を、あの手この手でひっきりなしに繰り出すサークの職人芸にある。つまり、いかにしてアルバとリーを二人だけにしないかという、その一点をめぐってドラマが転がり、笑いが弾けるのだ。もちろん、ラストはハッピーエンドである。
その点で本作は、コメディという形ではあれ、さまざまな障害や困難を克服した1組の男女がめでたく結ばれるという、ハリウッド古典映画の一典型だ。
そしてまた、こういう喜劇を撮れるかどうかが、じつは映画作家としての力量が問われる最大のポイントの一つなのである。――たとえば、ハワード・ホークスの“不肖の弟子”、ビリー・ワイルダーなどがこれをやると、俗悪で泥臭い作風になってしまう(『お熱いのがお好き』<59>のあのクドさ、冗長さ……)。
いずれにせよ、軽妙洒脱な、あるいは荒唐無稽な軽喜劇を撮れるのは、ホークス、エルンスト・ルビッチ、ジョン・フォード、プレストン・スタージェス、マキノ雅弘、中川信夫、そしてサークといった稀有の才能だけなのだ(それもまた、映画史における残酷な事実である)。
では、本作の“邪魔される新婚カップル”は、具体的にどう描かれるのか――。
まず、二人が結ばれるうえで
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