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【古典DVD傑作選(5)】 ダグラス・サーク『突然の花婿』――スピード感あふれる結婚喜劇

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 WEBRONZA「【古典DVD傑作選(4)】 問答無用の傑作ヒューマン・ドラマ、ダグラス・サーク『わたしの願い』」(2012/05/31同06/08)でも記したように、ハンブルク生まれのダグラス・サーク(1897-1987)は、ドイツ時代にヨーロッパ最大の映画会社ウーファでめざましい活躍をしたのち、39年に渡米し、50年代に『悲しみは空の彼方に』(59)を頂点とする「女性映画」の傑作を次々と撮り、ハリウッド随一の「メロドラマの巨匠」としての地位を築く。

 が、見逃せないのは、サークが狭い意味でのメロドラマだけでなく、犯罪ミステリー、戦争映画、ラブコメなどの幅広いジャンルの作品を手がけており、その多くが第一級品であることだ。この驚くべき芸域の広さは、やはりハリウッド古典期の巨匠の一人、ハワード・ホークスに匹敵する。

 今回取り上げる『突然の花婿』(1952、モノクロ)も、物語自体はたあいない約80分の低予算ラブコメだが、そのスピード感あふれる語り口にとことん魅了される。もっとも、サーク自身は本作のことは何も覚えていないと述懐しているが、しかしながら、お仕着せ企画をおそらく朝飯前でこんな小傑作に仕上げてしまったサークの才能には、あらためて感嘆せざるをえない(本作は「メロドラマの巨匠 ダグラス・サーク傑作選 DVD-BOX3」に収録)。

<物語:ラスベガスでリー(パイパー・ローリー)はGIのアルバ(トニー・カーティス)と、秘密裏に結婚する。朝鮮戦争から帰還し、リーの実家を訪れたアルバは、彼女が結婚したことを支配欲の強い母親(スプリング・バイントン)に話していないことを知る。母親は、リーを彼女の務めるセメント会社の社長ストゥルプル(ドン・デフォー)と結婚させようと決めていた……>

 『突然の花婿』の面白さのキモは、いかにして新婚ホヤホヤの夫婦を二人きりにしないか、という滑稽な状況を、あの手この手でひっきりなしに繰り出すサークの職人芸にある。つまり、いかにしてアルバとリーを二人だけにしないかという、その一点をめぐってドラマが転がり、笑いが弾けるのだ。もちろん、ラストはハッピーエンドである。

 その点で本作は、コメディという形ではあれ、さまざまな障害や困難を克服した1組の男女がめでたく結ばれるという、ハリウッド古典映画の一典型だ。

 そしてまた、こういう喜劇を撮れるかどうかが、じつは映画作家としての力量が問われる最大のポイントの一つなのである。――たとえば、ハワード・ホークスの“不肖の弟子”、ビリー・ワイルダーなどがこれをやると、俗悪で泥臭い作風になってしまう(『お熱いのがお好き』<59>のあのクドさ、冗長さ……)。

 いずれにせよ、軽妙洒脱な、あるいは荒唐無稽な軽喜劇を撮れるのは、ホークス、エルンスト・ルビッチ、ジョン・フォード、プレストン・スタージェス、マキノ雅弘、中川信夫、そしてサークといった稀有の才能だけなのだ(それもまた、映画史における残酷な事実である)。

 では、本作の“邪魔される新婚カップル”は、具体的にどう描かれるのか――。

 まず、二人が結ばれるうえで

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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