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カンヌ映画祭リポート(上)――是枝裕和監督は「小津の息子」?

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 「スピルバーグを感動にふるわせ、クリストフ・ヴァルツの眼鏡を曇らせ、ニコール・キッドマンに長い拍手を送らせた」

 公式上映後の審査委員たちの姿を、フランスの有力週刊誌「ルポワン」の記者はこう伝えた。この作品こそ、審査員賞を獲得した是枝裕和監督の『そして父になる』だ。

  子役の二宮慶多くん、黄升炫くんと手をつなぎながらレッドカーペットを踏みしめたのは、是枝監督とメインキャストの福山雅治、尾野真千子、リリー・フランキー、真木よう子。男性陣はスーツに蝶ネクタイ、女性陣は艶やかなドレス姿でカメラの前に登場した。

レッドカーペットで並ぶ是枝裕和監督と出演者たち=カンヌ拡大レッドカーペットで並ぶ是枝裕和監督と出演者たち=カンヌ
 5月18日夜22時からの公式上映後には、10分にわたるスタンディグオベーションが続いた。

 想像以上の手応えに、監督とキャストらの涙腺が緩んだ場面もあった。

 「ほっとした気持ち以上に、ああ届いたなという実感がある。こんなに熱い、長い、暖かい拍手に包まれたのは本当に初めて」(是枝監督)

 「(レッドカーペットの)映像をダビングして、辛いことがあったら見たい。こんなに輝いていた瞬間があったんだって」(リリー)

 本作に福山の父親役で出演し、膵臓がんのため映画祭直前に逝去した夏八木勲については、「(今夜のことを)見ててほしいな、見ててくれてるんじゃないかな」(福山)。

 映画『そして父になる』は、出生時に病院で子どもを取り違えられたため、6才になるまで他人の子を実の子と信じ、育てていた2組の家族の葛藤と再生の物語。5歳の娘がいる是枝監督自身の、親としての悩みが色濃く反映された作品でもある。

 「仕事で忙しく子どもと過ごす時間がないので、父親と子どもを結びつけているものとは何だろうと、日々悩んでいる。血のつながりか? 一緒にいる時間か? そんな問いが物語の種になった」。少なくとも本作の生みの親と育ての親は、是枝監督その人のようである。

 フランスの是枝人気は安定感がある。北野武、河瀬直美と並び、コンスタントに作品が配給される数少ない日本人監督のひとりだ。とりわけ『誰も知らない』『歩いても 歩いても』の人気は高く、それぞれ16万人、14万人の観客を集めた。『そして父になる』は審査員賞を獲得したことで、さらに過去の作品を凌ぐ観客を動員するだろう。

 さてカンヌ映画祭は、2004年に創設された「カンヌ・クラシック」という部門で、修復された名作や、映画史に関するドキュメンタリーを上映し、劇場公開やDVD化の後押しをする試みを続けている。この中で、今年は ・・・ログインして読む
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筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

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