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カンヌ映画祭レポート(下)――最高賞パルムドーム『アデルの人生 第1&2章』と同性愛

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 特産ワインのことをフランス語で「クリュ」と呼ぶが、多くのフランスのメディアが、この言葉を使い、「今年のカンヌ映画祭はBon Cru(良い特産ワイン)」、つまりは「良作が多い豊作の年」だったと結論づけている。

 記者会見の発表によると、本年度のカンヌ映画祭が、招待作を選ぶために視聴した映画は全部で1858本。この中から、最高賞パルムドール候補となる「コンペティション部門」に20本、新しい才能の発掘に意欲的で、コンペ部門よりもさらに個性的な作品が集まりやすい「ある視点部門」に18本が選出された。

 コンペティション部門には、すでに最高賞パルムドールを受賞済みのスティーブン・ソダーバーグ、コーエン兄弟、ロマン・ポランスキーをはじめ、ジャ・ジャンクー、アルノー・デプレシャン、パオロ・ソレンティーノといった常連はもちろん、アブデラティフ・ケシシュ、アスガー・ファルハディ、アレックス・ファン・バーメルダム、アルノー・デ・パリエール、ヴァレリア・ブルーニ=テデスキといったコンペ部門に初登場の新顔も多かった。

 ニコラス・ウィンディング・レフン、ジェームズ・グレイ、ジム・ジャームッシュ、フランソワ・オゾン、アレクサンダー・ペインといった、映画ファンが一目置く俊才たちの名もリストに華を添えた。日本からはカンヌになじみの深い是枝裕和、三池崇史が招待された。

 国別でみると、開催国のフランスとアメリカの作品が目立っていた。アメリカ勢の台頭は、カンヌ映画祭のプロデューサー、ティエリー・フレモーによると、「アメリカがティーン向けだけではなく、大人向けの映画を再び製作するようになったため」だという。

 一方、近年、質の高い作品を量産してきた韓国、ルーマニア人監督の姿はなく、2012年に存在感があったラテン・アメリカ勢は、残念ながらメキシコのアマト・エスカランテのみ。フランス以外のヨーロッパ近隣諸国も存在感が薄め。映画製作が困難なアフリカからは、チャドのマハマト=サレ・ハルーンただ一人の参加となった。

 女性監督は、コンペ部門にヴァレリア・ブルーニ=テデスキただ一人だったことに不満の声があった。だが、ある視点部門にはソフィア・コッポラ、クレール・ドゥニをはじめ8名の女性監督がいたし、カンヌの学生映画部門というべき「シネフォンダシオン」は、エントリーされた18本のうち7本が女性監督作品で、しかも受賞結果は1位と2位は女性が独占。「カンヌに女性監督が少ない」という批判は一面的なものだろう。

 全体的には60年~70年代生まれの監督が中心を占め、例年以上に平均年齢が下がり、世代交代が進んだ。会見でフレモーは、「スティーブ・マックイーンとポン・ジュノも招待したかったが、新作の完成が間に合わなかった」と本音を吐露。だが、それでも十分豪華なメンツが揃ったと言えよう。

 スティーブン・スピルバーグ率いる審査員団は、最高賞のパルムドールに、下馬評通りチュニジア系フランス人アブデラティフ・ケシシュ監督の『アデルの人生 第1&2章』(今回は特別、主演女優のレア・セイドゥとアデル・エグザルコプロスのふたりにも同賞を授与)を選んだ。

アデルの人生拡大『アデルの人生』
 原作は若いフランス人バンドデシネ(フランス語圏の漫画)作家ジュリア・マローの『青は温かい色』。同性愛を真っ正面から描いた史上初のパルムドールであると同時に、漫画が原作となった初のパルムドールでもある。

 主人公は高校生のアデル(エグザルコプロス)と、髪をブルーに染めた美大生エマ(セイドゥ)。数年間に渡るふたりの情熱的な愛の行方を追った約3時間の力作で、西洋絵画を思わす肉感的な裸体が美しいラブシーンも印象的だ。ただし一部性描写が長過ぎて、会場からは失笑が漏れる場面もあった。

 ケシシュは、今は亡きフランスの巨匠モーリス・ピアラのように、真実の一瞬を苦行僧のようにストイックに追い求める、演出のタイプで言えば、ナチュラリズムの系譜に連なる監督だろう。

 だがピアラが『悪魔の陽の下に』(87年)でパルムドールを受賞した時に会場からブーイングを受け、「あなたが私を嫌いなら、私もあなたが嫌いだ!」と勝利のコブシを振り上げていたのとはうって変わり、今回ケシシュは完全なる祝福ムードのなか、審査委員メンバーからも満場一致の絶賛でパルムドールを受け取った。

 おまけに主演の美女ふたりからは挟みキス攻撃まで受けたのだから、幸せ者以外の何者だというのだろう(とはいえ過酷な現場を強いられたスタッフと、映画祭の蚊帳の外に置かれた原作者からはブーイングを受けている)。

アブデラティフ・ケシシュ監督拡大アブデラティフ・ケシシュ監督
 おりしも映画祭の開催国フランスでは、同姓婚の問題が国を揺るがすニュースとなっている。社会党のオランド大統領の選挙公約であった「同姓婚の合法化」が、映画祭期間中の5月18日に発効されたばかりで、フランスは、欧州で9番目に同性婚が可能な国となったのだ。

 パルムドールが発表された映画祭最終日の26日には、パリで15万人(主催者発表では100万人)を集める反対派のデモが発生し、続く29日にはフランス南部のモンペリエで、国内初となる同姓結婚式が厳戒態勢の中で行われた。

 同姓婚の合法化に関しては反対派勢力もかなり強いため、国内ではまだ緊張状態が続いていると言える。

 そしてそのような現状に呼応するかのように、今年のカンヌは、『アデルの人生 第1&2章』を筆頭に、「同性愛」をテーマにした作品が輝きを放った年としても記憶される。

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筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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