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 AKB48選抜総選挙を見た。

 前にもちょっと書いたけどAKBってやたらと悪く言われている。まあ、日産スタジアムに7万人のファンを集めてんだから悪く言われるのも商売のうちか。

 ところでこの日産スタジアム、見渡す限り、席という席はスタンドのてっぺんまでびっしり客がいて、これほどまでにカンペキに満員の客席というのを私ははじめて見た。いや、私がいたのが西スタンド1階で、西スタンド2階より上は死角になってて見えなかったのでそこにゴッソリ空きがあったという可能性もなくはないが、でもたぶん西スタンドも天井まで客が詰まっていただろう。

 これにはたまげた。

 いわゆる興行に類すること(たとえアマチュアバンドのライブでも)をやったことのある人ならわかると思うけど、チケット買ってもらうということがいかにタイヘンか。売るのを諦めてタダ券くばったって「会場まで来て席に座ってもらうのは、さらにタイヘン」なのである。「なんや、券もらってやって、そのうえ来いちゅーんか」と言われたと、知り合いの劇団の人が落ち込んでいた。その知り合いがこのスタジアムの客席見たら泣く。

 で、その客が全員「ガチでファン」。

 義理で来て座ってるんじゃないんだ。隅から隅まで。義理で来てる客がつまんなそうに拍手もしないで見ているのに慣れた劇団の知り合いがこのサマを見たら泣く。

 総選挙の前にコンサートが2時間半ぐらいぶっ通しである。

 イントロが流れると7万人が「ズザッ!」と立ち上がり、曲にあわせて手旗(入場時にもらえる、たかみな<編集部注・高橋みなみ>イラスト入りのピンクの旗)を振り、リフにあわせて合いの手を叫び、曲が終わるとひときわ「ウォーーー!」と叫ぶ。その観客の叫びが巨大な筒になって、スタジアムから空に発射され、そして「ズザッ!」と着席する。

 いきなり全員が立ち上がった時には「ステージに押し寄せるのか!」と思わせるがそんなことはない。まるで不安要素はない。ガチガチに客席が管理されてる感じもないのに、みなさん節度を保ってらっしゃる。

 これを全体主義、気持ちわるい、という人もいるんだろうなあ、と思うが、私としては20年前ぐらいに大阪城ホールでエックスジャパンのコンサートを見た時の、黒装束の客の一糸乱れぬノリっぷりとか、YOSAKOIソーランの気合い全開の隊列とかのほうが気味が悪い。

 濱野智史が『前田敦子はキリストを超えた』とか言い出した時には「なんとまあ濱野さんはナイーブな人なんだろ」と呆れたものでしたが、この日産スタジアムの有様を見ていると、なんとなく濱野さんの気持ちがわかったのであった。

 AKBの客は威張っていない。

 ファンであることで威張らない。

 エックスジャパンやYOSAKOIの人は威張るからなあ。なんでエックスの、それもファンの分際で威張ってんだよ。

 その点、AKB客はもっと弱者……というか、応援の有様が(たとえ投票権のためにCD1000枚買いなんかをしていたとしても)貧者の一灯を捧げてるみたいなんだ。その一灯が寄り集まって日産スタジアムを煌々の光で照らすサマを見て、濱野さんは素直に感動して(いや、だからナイーブだっていうんだけど)、性善説を信じ、この光の中に神はいるのだと説きたくなったのでしょう。

AKB総選挙の会場は、この盛り上がり=2013年6月8日、横浜市の日産スタジアム拡大AKB総選挙の会場は、この盛り上がり=2013年6月8日、横浜市の日産スタジアム
 ただし、そういうことを言う人間というのは「力無き者たちの群れに、力ある自分が力を捨てて飛び込み」とか(無意識に)考えてるかもしれない、とふと気づいてしまうといきなり居心地が悪くなるのだが。

 でも総選挙の時期になると新聞が騒ぎテレビが騒ぎ、雑誌やwebのコラムでもAKBについてやたら論じられ、主にAKBをくさすようなことがいっぱい言われるのを読んでると、「ボクはあの光を信じるんだ!」と大声で世界に向けて言いたくなるだろうなあ、…………と気持ちはぐるぐるとループする。

 だって、どこかに書いてあったのが「AKBは現代の女郎」。女郎って。いくらなんでも(比喩としても)女郎ってことはないよな。

 ま、それどころじゃないんです。こっちは選抜落ちするかもしれないところにいるメンバーの応援をしてるんですから。

 AKBの選抜総選挙を楽しむ方法は、ネクストガールズ(33位~48位)、フューチャーガールズ(49位~64位)あたりに推しメンをつくることだ。いやムリにそこのメンバーを好きになれっていうんじゃなくてあくまで結果としてそうであると楽しみが増す、ということなんだけど、とにかく私はそのおかげでたいへん今回の総選挙は楽しんだし感動もした。

 そして、AKBの「これはアカンかも……」というのも、そのへんのメンバーを好きだと、見えてくるわけですよ。というわけで見どころをいくつか書いてみたいと思います。(つづく)

 

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筆者

青木るえか

青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト

1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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