2013年06月28日
韓国のパク・チャヌクがメガホンをとった『イノセント・ガーデン』を、2012年に東京・新宿にオープンしたシネマカリテで見た。
アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』に触発され映画監督を目指したというチャヌクらしく、本作は誰の目にも明らかなように、ヒッチの最高傑作の一本、『疑惑の影』(1943)を意識している。
物語のアウトラインはこうだ――その日、鋭敏すぎる五感をもつ少女、インディア(ミア・ワシコウスカ)は18歳になった。毎年どこかにプレゼントの箱が隠されていて、中には決まって同じデザインのサドル・シューズが入っているのだが、樹の上で見つけた今年の箱には、一本の鍵だけが入っていた。そして突然、送り主のはずの父(ダーモット・マローニー)が急死する。インディアは共に残された美しい母(ニコール・キッドマン)とは何ひとつわかりあえない仲だった。
父の葬儀の日、長年行方不明だった叔父チャーリー(マシュー・グード)が突然現れるが、その日から、不穏な出来事が起こり始め、周囲の人々が、一人また一人と姿を消していく。謎めいてはいるが魅力的なチャーリーに惹かれていくインディア。しかし実は、チャーリーは精神を病んだ殺人鬼だったのだが、くだんの鍵を開けると、いったい何が現れるのか――。
他方、ヒッチコックの『疑惑の影』のプロットはといえば――姪チャーリー(テレサ・ライト)が家族とともに住む平和なスモール・タウンに、ある日、彼女と同名の叔父チャーリー(ジョゼフ・コットン)が突然やって来る。姪はハンサムでジェントルマン然とした叔父が大好きだった。が、彼はじつは、奇妙な使命感にかられた連続未亡人殺しの犯人だった。やがて姪は叔父の犯行を疑い始めるが、そのことに気づいた叔父は、彼女を殺害しようとする……。
このように、『イノセント~』の物語には、『疑惑の影』との明らかな共通点がある。が、もちろん大きな相違点もある。たとえば、ヒッチコック作品のヒロインは、自分と同じチャーリーという名をもつ叔父に惹かれてはいるが、彼の正体を知ると、彼を恐怖し彼と闘う、あくまで正義/善/法の側の人間だ。
それに対し、『イノセント~』のヒロインには、徐々に明らかになるように、じつは叔父と“同じ血”が流れている。つまり彼女は、殺人者の血と
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください