メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

『イノセント・ガーデン』――ヒッチコック『疑惑の影』を意識した「野心作」だが……

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 韓国のパク・チャヌクがメガホンをとった『イノセント・ガーデン』を、2012年に東京・新宿にオープンしたシネマカリテで見た。

 アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』に触発され映画監督を目指したというチャヌクらしく、本作は誰の目にも明らかなように、ヒッチの最高傑作の一本、『疑惑の影』(1943)を意識している。

 物語のアウトラインはこうだ――その日、鋭敏すぎる五感をもつ少女、インディア(ミア・ワシコウスカ)は18歳になった。毎年どこかにプレゼントの箱が隠されていて、中には決まって同じデザインのサドル・シューズが入っているのだが、樹の上で見つけた今年の箱には、一本の鍵だけが入っていた。そして突然、送り主のはずの父(ダーモット・マローニー)が急死する。インディアは共に残された美しい母(ニコール・キッドマン)とは何ひとつわかりあえない仲だった。

 父の葬儀の日、長年行方不明だった叔父チャーリー(マシュー・グード)が突然現れるが、その日から、不穏な出来事が起こり始め、周囲の人々が、一人また一人と姿を消していく。謎めいてはいるが魅力的なチャーリーに惹かれていくインディア。しかし実は、チャーリーは精神を病んだ殺人鬼だったのだが、くだんの鍵を開けると、いったい何が現れるのか――。

 他方、ヒッチコックの『疑惑の影』のプロットはといえば――姪チャーリー(テレサ・ライト)が家族とともに住む平和なスモール・タウンに、ある日、彼女と同名の叔父チャーリー(ジョゼフ・コットン)が突然やって来る。姪はハンサムでジェントルマン然とした叔父が大好きだった。が、彼はじつは、奇妙な使命感にかられた連続未亡人殺しの犯人だった。やがて姪は叔父の犯行を疑い始めるが、そのことに気づいた叔父は、彼女を殺害しようとする……。

 このように、『イノセント~』の物語には、『疑惑の影』との明らかな共通点がある。が、もちろん大きな相違点もある。たとえば、ヒッチコック作品のヒロインは、自分と同じチャーリーという名をもつ叔父に惹かれてはいるが、彼の正体を知ると、彼を恐怖し彼と闘う、あくまで正義/善/法の側の人間だ。

 それに対し、『イノセント~』のヒロインには、徐々に明らかになるように、じつは叔父と“同じ血”が流れている。つまり彼女は、殺人者の血と ・・・ログインして読む
(残り:約1909文字/本文:約2897文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

藤崎康の記事

もっと見る