北原みのり(文筆家、「ラブピースクラブ」代表)
2013年07月13日
週刊文春の「安藤美姫選手の出産 支持しますか? しませんか?」をはじめとした今回の“騒動”は、私たちが未だに「未婚の母」なる言葉が生々しく響く社会に生きていることを認識させられた。“父親の名を明かさない”女は、未だにオジサンの心を掻き乱す“社会問題”、なのだ。
「まだ、結婚しておらず、父親が誰かも明かさないことへの疑問や、子育ても競技も中途半端になるのではないか」(週刊文春アンケートより)
そもそも一語一句がおかしかった。結婚と出産を結びつけること。父親の名を“明かさないこと”に疑問を挟むこと。最悪なのは「子育ても競技も中途半端」という、女への大変な侮蔑。
それでも週刊文春が数時間後にアンケートを撤回したことは、未来への小さな希望に感じられた。「仕事か家庭か」と、女に選択を迫るような中途半端な仕事をするオジサンへの怒りが、届いたのだから。政治家にはなかなか届かないけれど、届く怒りもあるのだ。
それにしても女子フィギュアスケーターとは、なんて危うい存在なのだろう。
ジェンダーが最も色濃く表現される競技であり、だからこそ彼女たちに向けられるオジサン視線は、時に大きく失敗しがちである。
2年前、タレントのラサール石井がツイッターで浅田真央選手を侮辱したのも、記憶にまだ新しい。
「浅田真央ちゃんは早く彼氏を作るべき。エッチしなきゃミキティやキムヨナには勝てないよ」「女になって表現力を身につけてほしい」
あまりにもおぞましい公開セクハラだった(ラサール石井は発言を撤回・削除)。若い女に「処女か?」「彼氏はいるのか?」と関心を剥き出しにする一方、自分たちの目の届かないところで行われた出産や性的奔放はルール違反と見なすオジサン目線。一流アスリートであれ、部下であれ、女とあれば“そういう視線”で関わろうとするオジサンの残念さは、何度失言を繰り返し、何人の女を傷つければ変われるのだろう。
そもそもこの国で、女性アスリートへの敬意が、あまりにも低いことも問題だ。
ロンドンオリンピックで、なでしこジャパンがエコノミークラスに乗り、男性サッカーチームがビジネスクラスに乗っていたことは、“国際社会で”問題になった。日本サッカー協会の男尊女卑を批判する声もあった。日本サッカー協会は規定で決められているだの、男性選手の方がカラダが大きい等々言い訳していたが、ビジネスクラスがカラダが大きい人が乗る席だなんて、私は初めて聞きました。
「(男子と比較し)二流のアスリート扱い」を受ける女性アスリートの立場は、アスリートではない普通の女たちの苛立ちと、どこか通じるのかもしれない。安藤美姫選手の出産騒動に素早く反応し、彼女に応援と共感の声を送る女たちの声を見聞きし、思った。
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