2013年07月15日
狂騒、ドタバタ、頓狂(とんきょう)、荒唐無稽。
そして、それらとは真逆なエレガンス、洗練、洒脱、粋。
この相反する二つのファクターが奇跡のように混交し、抱腹絶倒、腹筋崩壊の笑いを誘発する映画、それこそが、1930~40年代のハリウッド黄金期に花開いたスクリューボール(変人)・コメディだが、このジャンルの最高傑作の1本、『パームビーチ・ストーリー』(1942、DVDタイトル「結婚五年目」)が、東京・シネマヴェーラ渋谷で上映される(7月20日、23日、26日)。
開巻からギャグのつるべ撃ちが冴えまくる本作を見ずして、ハリウッド喜劇は語れまいとさえ思うが、監督は劇作家でもあり脚本家でもあった異能、プレストン・スタージェス(この才人監督とスクリューボール・コメディというジャンルについては、後述)。
<物語&若干のコメント(以下、部分的なネタバレあり):ヒロインのジェリー(クローデット・コルベール)は、結婚5年目の売れない発明狂でスクリューボール/変人の夫、トム(ジョエル・マクリー)と相思相愛の仲だった(むろん、トムとジェリーはアニメの有名な猫とねずみから拝借したもの)。
しかしジェリーは、非現実的な夫の発明狂ぶりについていけず、離婚を決意する。なにしろトムは、“空中飛行場”(!)などという、とうてい実現不可能なアイデアに熱中していて稼ぎがないので、夫妻はアパートの家賃を滞納しており、日用品の勘定も払えずにいる。そのため彼らはアパートを明け渡さなければならない。と、ここまでが、本作のシチュエーションの初期設定。
そして、それからの展開はもうムチャクチャ破天荒で、とても言葉では追えない。が、ざっと流れだけを書くと――夫妻の出ていくアパートに入居しようかと下見に来たソーセージ王の金持ち老人にジェリーは気に入られ、彼に借金をすべて払ってもらう。トムはジェリーが色仕掛けでカネをせしめたのだろうと、あらぬ疑惑を抱き、妻を問い詰める。
すったもんだ&ラブシーンが艶笑譚(えんしょうたん:セックス・コメディ)風味をまじえて展開された翌朝、ジェリーは部屋を飛び出し、着の身着のまま、パームビーチで離婚すべくフロリダ行きの特急列車に乗る。
車内でジェリーは、スクリューボール(変人)性全開の“うずら撃ちクラブ”という呑んべえ老人の狩猟グループと遭遇、とんでもない大騒動ののち、全米指折りの大富豪の御曹司、少々トロそうなハッケンサッカー三世(ルディ・ヴァリー)に見初められ、彼の自家用ヨットでパームビーチへ。
だがそこには、トムが飛行機で先回りしていた。
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