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スクリューボール・コメディの大傑作『パームビーチ・ストーリー』がやってくる!(上)――プレストン・スタージェスの才気弾ける“離婚活劇”

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 狂騒、ドタバタ、頓狂(とんきょう)、荒唐無稽。

 そして、それらとは真逆なエレガンス、洗練、洒脱、粋。

 この相反する二つのファクターが奇跡のように混交し、抱腹絶倒、腹筋崩壊の笑いを誘発する映画、それこそが、1930~40年代のハリウッド黄金期に花開いたスクリューボール(変人)・コメディだが、このジャンルの最高傑作の1本、『パームビーチ・ストーリー』(1942、DVDタイトル「結婚五年目」)が、東京・シネマヴェーラ渋谷で上映される(7月20日、23日、26日)。

 開巻からギャグのつるべ撃ちが冴えまくる本作を見ずして、ハリウッド喜劇は語れまいとさえ思うが、監督は劇作家でもあり脚本家でもあった異能、プレストン・スタージェス(この才人監督とスクリューボール・コメディというジャンルについては、後述)。

<物語&若干のコメント(以下、部分的なネタバレあり):ヒロインのジェリー(クローデット・コルベール)は、結婚5年目の売れない発明狂でスクリューボール/変人の夫、トム(ジョエル・マクリー)と相思相愛の仲だった(むろん、トムとジェリーはアニメの有名な猫とねずみから拝借したもの)。

 しかしジェリーは、非現実的な夫の発明狂ぶりについていけず、離婚を決意する。なにしろトムは、“空中飛行場”(!)などという、とうてい実現不可能なアイデアに熱中していて稼ぎがないので、夫妻はアパートの家賃を滞納しており、日用品の勘定も払えずにいる。そのため彼らはアパートを明け渡さなければならない。と、ここまでが、本作のシチュエーションの初期設定。

 そして、それからの展開はもうムチャクチャ破天荒で、とても言葉では追えない。が、ざっと流れだけを書くと――夫妻の出ていくアパートに入居しようかと下見に来たソーセージ王の金持ち老人にジェリーは気に入られ、彼に借金をすべて払ってもらう。トムはジェリーが色仕掛けでカネをせしめたのだろうと、あらぬ疑惑を抱き、妻を問い詰める。

 すったもんだ&ラブシーンが艶笑譚(えんしょうたん:セックス・コメディ)風味をまじえて展開された翌朝、ジェリーは部屋を飛び出し、着の身着のまま、パームビーチで離婚すべくフロリダ行きの特急列車に乗る。

 車内でジェリーは、スクリューボール(変人)性全開の“うずら撃ちクラブ”という呑んべえ老人の狩猟グループと遭遇、とんでもない大騒動ののち、全米指折りの大富豪の御曹司、少々トロそうなハッケンサッカー三世(ルディ・ヴァリー)に見初められ、彼の自家用ヨットでパームビーチへ。

 だがそこには、トムが飛行機で先回りしていた。 ・・・ログインして読む
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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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