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毒と笑いと傷を含んだきゃりーぱみゅぱみゅが、アイドルブームに終止符を

近藤康太郎 朝日新聞諫早支局長

 音楽ライターの端くれだから、身すぎ世すぎでアイドルも書く。これほどのブームになれば、原稿の発注も来るし。ここ1、2年で、集中的にアイドルを見たし聴いたが、まあ確かに、へたなロックバンドより、よほどおもしろい。音楽で新しいことをしようとしている。実験している。楽曲提供者などスタッフが充実している。カネの集まるところに、才能も情報も集まる。

 中でも、きゃりーぱみゅぱみゅのおもしろさは、一歩、抜けている。きゃりーの歌の吸引力は、ちょっとひどい。犯罪クラス。音楽のくさや。耳に残って仕方ない。作詞作曲を担当する中田ヤスタカの手腕といえばそうなのだが、強烈な中毒性がある。

 たとえば、ニューアルバム「なんだこれくしょん」からの「インベーダーインベーダー」。ピコピコ安っぽい電子音で「おっしゃ Let’s 世界征服だ だ だ だ インベーダー」とか、意味不明な歌詞のループを繰り返す。

「KAWAii!! MATSURi」のきゃりーぱみゅぱみゅ=4月21日、東京・千駄ケ谷拡大「KAWAii!! MATSURi」のきゃりーぱみゅぱみゅ=4月21日、東京・千駄ケ谷
 意味不明と書いたが、「オシャレで世界征服」という言葉遊びの、しかし勇ましいマニフェストであるのは明らか。「征服だ」「インベーダー」と語尾で韻を踏んで、メビウスの輪のようにつなげる巧妙さとか。すごくうまい。癖になる。

 きゃりぱみゅ特有の平坦・無機質なロボ声が、よけいに中毒性を増す。社会問題化した、懐かしのインベーダーゲームそのまんま。

 で、きゃりーと中田コンビのすごいところは、ちょっと変ではあるが間違いなく「アイドル」であるのに、当の「アイドルブーム」に引導を渡す役割を負っているところなんだ。

 きゃりーの生ステージを見てまず感じるのは、スカッとさわやかコカコーラな、爽快感だ。

 夏のロックフェスで見たが、一番大きなステージに、バックバンドもつれず、子供みたいなダンサーを数人引き連れただけで、出てくる。

 ロックフェスだから、自分のファンばかりではない。野次馬もけっこういる。アウェーである。凝った舞台装置なんかない。がらんと広いステージで、カラオケに合わせ、「だ だ だ インベーダー」とか歌う。それだけ。フェスというより、デパートの屋上でミカン箱に乗って歌ってるみたいな。

 これ、原宿をすっぴんで歩くのと、どっちが勇気いるんだろう。度胸一本、さらしに巻いて。心臓に、つけまつげが生えてる。

 なによりこの人、だれにも媚びていない。男はもちろん、同世代の女の子にも。オタクにもロックファンにも。「投票して」だの「紅白に出させて」だの「国立競技場でライブが目標」だの、まったく思ってないでしょ? わたしはこっちで好きなことやってますんで、そちらさんも、よろしかったらご一緒に、にんじゃりばんばん? そんなアティテュード。恐いものがない。

 自分の好きなこと、自分にとっての「かわいい」ことしかしない。 ・・・ログインして読む
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筆者

近藤康太郎

近藤康太郎(こんどう・こうたろう) 朝日新聞諫早支局長

1963年、東京・渋谷生まれ。「アエラ」編集部、外報部、ニューヨーク支局、文化くらし報道部などを経て現在、長崎・諫早支局長。著書に『おいしい資本主義』(河出書房新社)、『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』(水野和夫氏との共著、徳間書店)、『「あらすじ」だけで人生の意味が全部分かる世界の古典13』(講談社+α新書)、『リアルロック――日本語ROCK小事典』(三一書房)、『朝日新聞記者が書いた「アメリカ人が知らないアメリカ」』(講談社+α文庫)、『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』(講談社+α新書)、『朝日新聞記者が書けなかったアメリカの大汚点』(講談社+α新書」、『アメリカが知らないアメリカ――世界帝国を動かす深奥部の力』(講談社)、編著に『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』(文春文庫)がある。共著に『追跡リクルート疑惑――スクープ取材に燃えた121日』(朝日新聞社)、「日本ロック&フォークアルバム大全1968―1979」(音楽之友社)など。趣味、銭湯。短気。

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