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ネット選挙、原発問題が炎上するメカニズム――連続討議「ソーシャルメディア社会における情報流通と制度設計」から(5)

情報ネットワーク法学会

電子投票と秘密投票の原則

 そして、ネット選挙解禁の目指すべきゴールは電子投票ということも言われています。エストニアやブラジルでは一部解禁されていますが、先進国で導入している国は多くはありません。というのも、秘密投票の原則をいかに担保するかという点に困難がつきまとうので、ネット選挙の到達点として電子投票を置くことは、民主主義にとって必ずしも望ましいとは限らないと思います。例えば、宗教を支持基盤にしている政党の支持者や、もともとイデオロギーを中心にした支持母体の人たちが、支持者を一箇所に集めて、「さあ皆さん投票してください」といったことができてしまう。あるいは老人ホームなどもそういった対象になりかねません。

 このような状況が果たして民主主義にとって良いのか、悪いのかということです。ちなみにエストニアでは、締切まで何回でも投票をやり直せるようにすることで、そこを担保しているようです。しかし、それでも締切1分前にみんなを集めて、「さあ投票してください」みたいなことをやれば、秘密投票の原則を乗り越えてしまうことはできます。技術で可能なことが必ずしも、民主主義の改善に寄与しない一例かもしれません。技術で解決できる妙案もありうるのかもしれませんが、少なくともぼくは今ここではちょっと思いつきません。

 総じて、今回の日本におけるネット選挙は上手く行かなかったと言わざるをえないでしょう。なんのために解禁したのか目的がよくわからない、あるいは目的が根拠の乏しいものであったわけで、「理念なき解禁」だったというわけです。一般にメディア研究の世界では、新しいメディアが導入されると、従来の現職ではなく、新人が強くなるという「変化仮説」と、もともと存在する権力関係をより強固なものにする「正常化仮説」のせめぎあいがあったわけですが、今回のネット選挙を見る限り、正常化仮説の考え方が適用できるようです。自公圧勝、民主党凋落ということが言われて、予想通りになりました。

 次に、改めてネット選挙解禁の歴史を簡潔に振り返っておきます。日本の政治においては、1996年に新党さきがけが旧自治省に「インターネットを選挙運動に利用してもよいのか」という問い合わせをしたことから始まっています。とりわけ2000年代を通して、野党時代の民主党がひとつの目玉政策として提唱しつづけてきました。

 政権交代後、民主党政権になり2010年には与野党合意に至り、いよいよ公選法改正をやるのかと思いきや、突然の鳩山首相の辞任によって実現しませんでした。その後の民主党の歴代首相はネット選挙を推進せず、民主党政権時代には前に進みませんでした。ネット選挙解禁が自民党に有利になるのではないかという議論がなされたと聞きます。

 再びネット選挙が日の目を見るようになるのは、2012年の衆院選直前に自民党の安倍総裁が解禁に注力すると宣言した時でした。実際、12年の衆院選の最後の応援演説を秋葉原で締めくくって、ネット選挙解禁を推進する姿勢を示しました。ネット上で大変話題になりました。実際、2013年の参院選の最後の応援演説も、自民党は秋葉原を選択しましたね。とまれ、2013年に自民党の執行部を中心に議論が加速し、13年4月19日の参院本会議で改正公選法が成立しました。これによって、日本でもネット選挙がかなり広範に解禁されたことになります。

SNSファン数、公明党のLINEが突出

ユーザーローカルより引用>

 図は7月18日に(株)ユーザーローカルがまとめた政党別のSNSファン数です。ツイッター、フェイスブック、LINEの公式アカウント数をまとめています。やはり公選法の改正を主導した自民党はツイッター、フェイスブックが多くを占めています。ネットでも影響力を持てる、つまり勝てる見込みがあったからネット選挙を推進した、というごく当たり前の構図が見えてきます。現職議員たちにとっては、本来自分が勝ったことがある選挙のルールを変えるインセンティブには乏しいはずですが、2009年から研究してきたというだけあって、自民党はこの分野でも他党よりも影響力を持てるというめどを立てていたはずです。

 面白いのは、公明党と共産党です。グラフにあるように、公明党はLINEのユーザーが突出しています。一般ユーザーにPRしたいというよりは、もともとの支持基盤の引き締めのために、比較的クローズドなLINEを活用しようとしたということが見てとれると思います。共産党にも似たような傾向が見出せます。

 これから紹介するのは、私が関わった毎日新聞と立命館大学の共同研究です。2013年の参院選に関連する調査研究を、選挙期間中からどんどんコンテンツとして出していこうということで始めました。1つ目は、NTTグループの「バズファインダー」というサービスがあって、1日のツイッター上の全量データを購入して、それを分析したことです。候補者のアカウントを特定して、全ツイートを抽出して、定量的に分析しました。とりわけツイート数とリツイート(RT)数を見ました。ツイート数はある種、情報発信のコストで、RT数は影響の量と考えてもらえればいいかと思います。

 2つ目は、全ツイートのテキスト分析です。テキストマイニングの方法では最も単純な手法ですが、頻出語句を抽出することを核に据えました。

 3つ目が、世論調査とボートマッチ(自分の考えに近い政党や候補者を知ることができる投票補助サービス)のサイト「えらぼーと」を比較しながら報道を行うことです。つまり、特性の違う複数のメディアで得られている情報を同時に示すということです。

 従来ツイッター分析というと朝日新聞の企画「ビリオメディア」のように、世論調査やボートマッチのサイトのような、複数メディアを比較しながら、単にNTTからデータを買うというものが多かったと思います。

 今回、候補者のアカウントを全特定して、分析して、報道していったのは新しかったのではないでしょうか。もうひとつ、「ビリオメディア」では、いろいろな部署から記者を集めて、デスクの方がついてという通常の体制だったわけですが、それに対して、今回の毎日新聞社との共同研究は政治部・社会部・デジタルメディア局の三部合同の企画になっています。ぼくと部長級の方や、デスクの方も入って企画会議を開いて、その決定事項に基づいて企画を具体化していきました。このようなガバナンスの新しさもあったと思います。

公示前からツイッターでは原発が話題

 争点があまりないと言われていた参院選ですが、今回のネット選挙の報道は何度も毎日新聞の一面になりましたから、目玉コンテンツのひとつになったと言えるのではないでしょうか。そのなかで予期せぬ出来事だったのが、反原発関連の人たちからの「反響」でした。原発問題について言及したことをきっかけに、反原発の人たちが大変話題にしてくださって、「はてなブックマーク」の数もぐんぐん伸びました。抽出したものをご紹介しましょう。 ・・・ログインして読む
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